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COLUMN

いい会社づくり通信

うれしさの根源

2021.07.26岡村 衡一郎

 最前線でお客さまに立ち会う人、ホテル旅館のフロントの方々に触れて、私は、うれしさの表現をすることが少ないことに違和感がある。
機械的と感じると言ったら大げさだが、ありがとうという言葉に熱を感じる機会はあまりない。
これは、本人の問題というよりも、仕組みに問題があるのかもしれない。
笑顔が出やすいように仕事が設計されていないのだろう。

 お客さまがフロントにたどりつく前の工程にかかわれていないから、選んでくれたことへのありがたさが感じ取れないのだろうか。
いや、ミスができない入力業務の合間に接客があるから笑顔が出せるエネルギーが続きにくいのかもしれない。
はたまた、コロナ禍のいま、多くの人に触れあう環境にあるから心配なのかもしれない。
いずれにせよ、フロントの方が人を呼ぶことにあまり関与できていないか、会社として、なじみ客づくりに焦点が当たっていないことに原因がありそうだ。

 その昔、アサヒビールがフレッシュ作戦を行なっていた。
フレッシュ作戦を一言で言えば「新鮮でおいしいビールをみんなで力を合わせて届ける」作戦だ。
当時、私の仲間 Y が、アサヒビールの工場に仕事で伺ったときに、たまたま「このあいだ買ったビールが、まだ届かない」と一言もらした。
その瞬間、Yとの仕事は一旦停止、購入したビールがどこにあるのかを調べに回った。

 うれしさの根源。
自分たちの仕事をよい形でまっとうすることで喜んでもらう。
アサヒビールの工場の方々に、私はつくる人だから購入した商品は営業部に聞いてくれといった雰囲気はなかったとY は私に教えてくれた。
「あさってに着きます」。
Y 氏の仕事のお客さまが、工場の方々だったはずが、その瞬間、Y が、お客さまに逆転した。
工場も営業も、新鮮なビールを届けるための日常業務を分担している。
何かあれば、分担よりも目的を優先させるのだ。

 ホテルや旅館で言えば、なじみ客づくりになるだろう。
なじみ客になってもらうための最低限の役割分担が、いま、の仕事と考えれば、フロントの動きを支える仕掛けが変わってこないだろうか。
この時期、宿泊する人たちは、泊まることが必需品である人たちだ。
出張して、お客さまと相対で仕事をする必要がある人、生きることを支えるエネルギーの充足が旅行という、旅が好きな人たちなどだ。

 言い換えれば、常連になりうる、最大のお客さま候補の方々が、いま、来ている。
ところが、フロントでの対応はいままで同じ通常モードだな…と感じざるをえない。
3カ月以内に再来の可能性が高い人が目の前にいる。
いま、この瞬間、一工夫で、もう一回選んでもらう方向に動けるか、動けないかが、いま、後の事業を左右すると言ってもいいだろう。
いま、お客さまをつくれることへの
効力感を感じにくいのであれば仕掛けを変えて、なじみ客をつくれるチャンスに臨めるバックアップができないだろうか。

 いま、接客と販売促進が重なりにくい仕組みであるならば要変更だ。
また来ていただいたことへの効力感が実感できる、仕事のうれしさを感受できる仕掛けを、それぞれのやり方で見つけてほしい。
アサヒビールという大規模でもできるのだから、どこでもできるはずだ。
どの商売もリピートしてくれるお客さまで決まるのだから。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 189」2020.9.4】