ホテルの新機能を考える
2020.10.26岡村 衡一郎
2019年10月9日の朝日新聞・経済欄に「ライフスタイルホテル」続々誕生の記事があった。
ご近所さんも集う空間としてもホテルを活用する。
これらの取り組みを増やしていくのが「ライフスタイルホテル」の中心にある考え方だと伝えている。
ライフスタイルホテル誕生の背景に、これまでのように、宿泊客を対象に商売をしていくだけでは、ホテルの役割が不十分な時代に入ったというシグナルではないだろうか。
確認するまでもないかもしれないが、マクロにみれば日本のマーケットは右肩下がり。
前提としていた人口構成や所得分布も変わっているし、かつて当たり前にあった地域の絆などは消滅しかかっているところもある。
新しい役割を付け加え、社会の問題課題解決につなげる空間活用の好事例として、沖縄県那覇市の若狭公民館がある。
以前サービスイノベーションで紹介させていただいたが、地域の利用者数を大きく伸ばした取り組みには、ホテルを一つの箱としてとらえた場合のヒントがつまっているように私は思う。
「今の公民館は時間とお金に比較的余裕がある人の施設になっていないだろうか」。
考え直しの出発点は館長の素朴な違和感からだ。
若狭公民館の館長は、地域との関係を今一度考え直して手を打っていったのだ。
・公民館とは地域のハブだ。
・公民館とはみんなが楽しめる場所だ。
・公民館とは子供の遊び場だ。
・公民館とはつながりの起点になる必要がある。
・公民館とは………
館長はスタッフたちと、公民館とは何か、新たに担う役割とは何か、をとことん話し合っていった。
もともとは公の民の館で公民館。
確かに館長の違和感は新機能を考える上で中心をとらえたものであった。
館長のすごいところは、それぞれの意見を大切にして、決して自分の意見を押しつけず、その役割を担うための具体策を一緒に考えていったところだ。
そして、評価は地域の人が決めることだからと、アイデアを出し合ったらまずやってみる、を繰り返した。
その中から生まれた変化の象徴とも言えるイベントが、「100人でやる!だるまさんがころんだ」や「うみそら上映会」だ。
これらのイベントの成功もあり、なんでもやってみようという雰囲気は新生・若狭公民館の力になった。
なんでもやってみる公民館には「教室をやってみたのですけれど相談にのってもらえますか」とさまざまな年代の人たちからの相談が舞い込んでくるようにもなった。
新たなチャレンジを実践している身近なお手本が、「教室をしてみたい」「交流会を企画してみたい」という人たちの心を動かしている。
若狭公民館のようにホテル業界もインバウンド需要の先には、社会の問題解決・課題解決にビジネスの焦点をあて直す必要がある。
若狭公民館は多面的だ。
地域の人が集うハブであり、小学生が学校帰りに立ち寄る場でもあり、地域の人たちの挑戦をプロデュースできる場でもある。
そして地域の活性化を担う人材育成までを行なっている。
そして地域の人と技能が交流する起点となり、地域の経済を支える側面も持ち合わせた公民館になりつつある。
ホテルを一つの箱としてとらえた場合、何を新機能として加える必要があるだろうか。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 154」2019.11.8】