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COLUMN

いい会社づくり通信

商品・サービスは生まれ変わっているか

2020.10.20岡村 衡一郎

 画像は朝日新聞に掲出されていた、いすゞ自動車の広告である。
歴代のトラック「エルフ」が時系列で並べられ、商品の深化が見て取れる。
広告の右上には「何度でも生まれ変わる」と自信に満ちたメッセージがある。

 左上から3代目のエルフと4代目のエルフでは、助手席ドアの形状が異なるのが分かるだろうか。
3代目では、窓ガラスとドアの境界線は、地平と平行に区切られているのに対して、4代目ではトラックの先頭に近づくにつれ、くぼんでいく。
このくぼみで、トラックが左に曲がる際に、今まで見えにくかったバイクや自転車の問題を解決した。

 今では当たり前となった、助手席側のドアと窓の形状は、当時のエンジニアたちが、悩んで、悩んで、たどり着けた設計仕様であった。
できたものを見てしまえば、ないのが不思議かもしれない。
しかし、ここを思いつくのも、形にするのも、そんなには簡単ではなさそうだ。
車重は軽くし、運転手を守り、運転中の視界を限りなく広く取る。
この相反する設計仕様をかなえていく必要があるからだ。

 第一にトラックは、トライバーの安全が守られなければならない。
ということは、万が一ぶつかったときに、四角い形状を、なるべくつぶれないように維持するだけの強度が必要になってくる。
助手席のくぼみは、強度を保つという観点からは、反対の方向に働く仕様だ。
第二に決められた車重で積載量を確保しなければならない。
先頭部分を補強すればするほど車重は重くなる。
ということは、積載量が減っていくのだ。
そして第三に視界確保のために、ガラス面を増やせば、強度は落ちていくのだから、別の所での補強が必要になってくる。

 3代目のエルフから4代目エルフへ。
彼らの開発コンセプトは、信頼と安全であった。
分かりやすく言い換えれば、世界一壊れないトラック、世界一安全なトラックをつくる、ということである。
お客さまから見れば、トラックに最も求める2大価値基準と言えるだろう。
当時のいすゞのスタッフは、信頼と安全を世界一レベルで実現するために一丸になっていたと聞く。

 彼らのトラックは、信頼と安全という、終わりのない価値に向かって、何度でも生まれ変わるのである。
先代のモデルは、もちろん、信頼と安全に一点の妥協なくつくられている。
それを新モデルで超えていくのである。
いすゞのスタッフは、開発は自分との戦いだと言う。
商品・サービスの深化とは、まさに、自分たちを超えた分、果たせるものなのかもしれない。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 153」2019.11.1】