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COLUMN

いい会社づくり通信

出戻り社長の仕事術

2020.11.02岡村 衡一郎

 中部エリアに本社がある創業40年のPR会社・新見の新社長は、若いころに一度同社を辞めている。
出戻り後の努力が買われて、新社長に就任した。
30代のころに「もっと自由にやらせてほしい」と、上下関係、指示命令関係での不満が爆発して会社を出て行ったのだ。
退職して3カ月、職探しをしていたときに直属ではなかった部長が彼を説得して呼び戻したのだ。
部長は彼の不満の反対にあるやる気に一目おいていたからだ。

「盛大に送別会もやってもらって今戻るのもかっこ悪い」。
戻って来いの投げかけに即答はしなかった。
だが仕事が嫌いで辞めたわけでないし、自分が文句を言っていた理由もある程度振り返りができていた時期でもあった。
もし戻るなら今までの自分ではダメだ。
呼び戻そうとしてくれている部長のメンツもある。
部長には、戻るために整理の時間がほしいと伝えて、30代の新見さんは、ひたすら、自分には何が足りなかったのかを考え抜いたそうだ。

 考え続けて数週間、自分のパターンが見えてきたそうだ。
例えば、相手に切れてしまった自分は、すべてを相手の責任にしていた自分がいたこと。
上司を口説けるだけの説得材料がそろえられないままに押し通そうとしていた自分がいたこと。
上司の意見に乗っかっていた自分がいたこと。
そして、戻るからには、すべてをつないで成果につなげていくと決めたそうだ。

 再入社後、すべてを自責で頑張る新見さんは、持ち味のねばり強さが良い方向に働くようになる。
相手のためをとことん考え抜いたアプローチに磨きがかかっていったのだ。
お客さまの言葉の裏側には何があるのか、真のニーズは何なのか、成果が出にくい瞬間でもあきらめずに自分にできることを考え抜いた。
そしてお客さまの問題は課題解決につながるための手段を選ばなくなっていった。
自分の小さな考えに縛られず、社内外の協力者を募り、新生・新見として仕事を進めていったのだ。

 すべては自分ごと。
相手のせいにした瞬間に仕事は迷路に入る。
30代のころに陥っていた自分のスランプの原因をよく知っているから、たまにグチや不満も言いながらも、いつも自責に戻って来られる。
「新社長として全員が部下という立場になったばかりなので、部下の仕事の進め方の善しあしと自責の関係には苦労しています。
この点は、ついつい相手のせいにしたくなってしまいますね」と笑顔で語る新見新社長は明るい。

 絶えず自責。
これは仕事を進めていく上での鍵ではあるが、なかなか実践に移すのが難しいことの一つだ。
努力して、とか、頑張ろうとか、指を自分に、などの精神論の範囲にとどまって実践に移していきにくいことの一つだろう。
相手に起こっていることは自分が原因と自分に引きつけ、読み込んで、第三者の力を借りてでも成果につなげる。
自責の実践論のモデルが新見社長の仕事の進め方にある。

 再入社を決める際に違いをつくった仕事の進め方は、社員のお手本となり会社の武器に、社風になりつつある。
相手のために、を考え抜いて、相手に起こっていることの原因を自分に求めていければ自分のこだわりは消えていく。
新見社長は自責の仕事を多くの社員と楽しんでいるように見えた。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 155」2019.11.15】