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COLUMN

いい会社づくり通信

お客さまと接点をつくる商品を決める

2019.03.05岡村 衡一郎

 春日部の藤の牛島にいる、スポンジ名人は 62 歳。
本名は石川 浩、このニックネームは石川さんが 45 歳のときに、お客さまが名付けた。
最高の賛辞に、かつて石川さんは「ケーキはスポンジだけではない」と違和感を持っていた。
それもそのはずである。
あらゆる商品を食べ比べては改良する、菓子と真摯に向き合う 30 年の歴史も持ち合わせているからだ。

 全部おいしいが伝わらないことが課題だった当時の「スワン」に必要だったのは、真摯につくられるお菓子と地域の人たちとをつなぐ接点の明確化であった。

 開業以来、売れ続けている商品に突破口があるはずだ。
販売データをひも解いていくと、スポンジで直球勝負のロールケーキの売り上げは 1 ~ 5 位を占め、コンスタントに売れ続けていることが分かった。
「おいしいケーキはスポンジできまる」という石川さんのケーキ哲学は、こうして商品づくりに生きていく。

 テーマが明確になれば、問題の半分は解決する。
ロールケーキを売り上げ構成比の 19%以上にする。
この一点に絞って、週に 1 回の店休日に奥様を交えて作戦会議をくり返した。

 販促責任者の奥様は、すべて手書きで、A4・一枚の一色刷のチラシをつくった。
チラシには「スワンのロールケーキ。
おいしさの原点はスポンジにある。
ブームではない本物の味を追求。
追伸、安心して子供に食べさせられる素材を使用しています」という石川流の戦い方が見える。
前者はロールケーキのおいしさの根拠を示している。
後者は大量生産品のアンチテーゼにもなる。

 近隣に、来店してしれた人に、3 名のスタッフと手書きのチラシを一緒に配れるだけ配った。
「なんか違うと思っていたけどスポンジだったのね」
「友達にロールケーキがいいって聞いた」といった口コミは足元から広まる。
徐々に店での会話が、世間話から商品中心の話に変わり始めた。

 100 種を超える品ぞろえは、スワンのロールケーキという中心がはっきりするまでは、仕入れ品と誤解されることが多かった。
それも仕方がない。
あれだけの品ぞろえを後ろの厨房だけでつくっているお店の方がめずらしいのだから。

 お客さまとの触れあう時間は短い。
100 種類以上の商品を一つ一つ説明できるはずもない。
大切なのは、お客さまが A だから B、B だから C と、頭の中でおいしい理由の連鎖が起こるようにしていくことにある。
スポンジがおいしいから、全部おいしいに変わった。

 15 年で「スワン」の来店客は 4 倍になり、売場は全国へと広がった。
人もまばらの商店街の一角に一日 1000 人以上お客さまが訪れる日もある。
春日部の名店として、小売りだけでなく卸やイベント需要にも対応。
商品は人の手を介して全国へと羽ばたいていく。

 スワンのロールケーキ。
「赤米ドーナツ」「世界でひとつのバースディケーキ」「やわらかプリン」。
同店には逸品が数多くある。
すべては、スポンジに対するシェフの長年のこだわりと奥様が大切にし続けてきたメッセージに尽きる。
地域のお客さまとの接着点を「ここ」に定めた取り組みが花開いた。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 076」2018.2.9】