本来的価値で負けない。「たとえ火のなか水のなか」でそれを伝える
2018.10.09岡村 衡一郎
自社商品は何らかの使用価値を持ち、誰かの仕事や生活を助けている。
耐荷重に優れ、小さくて、耐久性のある車輪が主力商品であるA 社は、「たとえ火のなか、水のなか、あなたの仕事を支えます」とキャッチコピーを掲げている。
十数トンを超える重たいものを水の中や熱がこもる場所といった、過酷な環境で移動させなければならない作業を車輪で支えている。
A 社の主力商品の本来的な使用価値は、ズバリ! 耐久性になる。
外せない価値で差異化する重要性は、どの商品にもあてはまる。
食べ物なら「おいしさ」だ。
近年ペットボトルのお茶の競争は、容器の形やパッケージでのサブの争いから、本来的なおいしさに移っているようだ。
自動車ならズバリ! 燃費だ。
ここに妥協していない自動車が選ばれる確率は高い。
ズバリ! 価値の重要性は、次のように考えてもらえば、さらに理解が進むだろう。
見た目はいいが燃費の悪い車はそんなには売れないし、かっこいい容器に入ったお茶でも、味があまりよくなければ、リピート購入にはならないだろう。
だが、商品の本来的な価値をつきつめるのは、簡単なようで難しい。
どの商品もある程度のラインまで完成度があるからだ。
地域一、日本一、世界一になる商品は本体的価値の煮詰め方が違う。
微修正の上に微修正がを繰り返す。
グリコのポッキーがそうだ。
開発に携わってきた方に、「何回手直ししたのですか」とたずねてみたところ、答えは「いっぱい」であった。
この取り組みの結果、チョコレートの本場ヨーロッパでも売れている。
数えきれないくらいの味の修正をしているのだ。
突き詰めるべき本来的価値をデータ改ざんでごまかした自動車会社が、他社の傘下になってしまった。
恐らく、あるべきデータ目標を示して、担当者の力量に任せて尻をたたいていたのだろう。
メイン価値の煮詰めを誰かの仕事に任せていてはダメなのだ。
おいしさアップや耐久性アップ、燃費アップに、かかわる人の知恵を一点に束ねなければ改良が進まない。
「たとえ火のなか、水のなか、あなたの仕事を支えます」。
A 社の掲げるキャッチコピーの背景には、設計、営業、製造の部門を超えた取り組みがある。
営業は顧客の使用状況を確認し、さらなる要望を引き出しだす。
設計は、あらゆる躯体の構造を研究し自社製品への応用を考える。
製造は製作過程で工数を減らすことと、狂いのない工程を日々検討している。
水場の作業の耐久性と一口に言っても、海か川か地下水かによって異なる。
A 社の商品開発は、営業、設計、製造の三位一体で進めているからこそ、お客さまの使用状況にとっての最適な車輪をつくることができる。
一番大切なのは本来的価値の追求という認識のもと、三者の取り組みの総決算として、耐久性アップが実現される。
本来的価値のブラッシュアップは、仕事のマンネリとの闘いでもあるだろう。
競合他社との比較で、手を抜いた方が、飽きた方が、これで完璧と思った方が、負けていく。
ズバリの価値アップに限界はない。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 056」2017.9.1】