当たり前は、実は、武器になる
2022.01.12岡村 衡一郎
2021 年 9月 20日㈪・祝日。
東京のあるホテルのランチもディナーもお客さまの行列があった。
緊急事態宣言の中、酒類提供は控え、閉店は夜の 8 時。
午後 6 時時点で 20 人弱の人が並んでいたから、5 時 30 分からのディナーは 2 回転弱だろう。
窓越しにみえる家族やカップルの表情から心待ちにしていた食事にという感じが伝わってくる。
お客さまは、ディナービュッフェ付きプランが半分、ビュッフェをめがけて来店された方が半分という構成だろうか。
旅の楽しみの主要な要素は食であり、初めてその地を訪れる人にとっておいしいお店を探すのは一苦労だから、近くにあるにこしたことはない。
しっかりとした工程で料理をつくるシェフの料理はおいしい。
ホテルの方々にとっての当たり前は、実は、武器になる。
武器は徹底的に使っていけば差になる。
九州のビュッフェレストランの繁盛店の社長、東京の寿司の食べ放題店で繁盛させている社長がそうだ。
二人の社長は、職人やシェフがつくるおいしい食事を、好きなように選べて、楽しめるという、本質を生かし切って繁盛店につなげている。
中途半端な原価コントロールではなく、仕込みの良さで結果的に採算があう形で収益につなげている。
九州のビュッフェレストランの繁盛店の社長は、ニューヨークのホテルではじめてビュッフェに遭遇した時に、シェフがつくったおいしいものを、好きなように選べて、楽しめる、こんな贅沢はないと思ったそうだ。
彼は地元食材の流通しにくい材料もフルに生かして、ニューヨークのホテルでのビュッフェの感動を軸に商品を変えて再現し続けているから支持されている。
東京のすし食べ放題の繁盛店の社長は、「銀座で食べたら1 万円、うちは、その感動を 5000 円で味わえるようにしている」という。
だから仕入れは厳密に、お客さまの食べる順番も、こちらが提案する形で、楽しさアップと原価をコントロールの両方を可能にしている。
分かりやすさを重視して食べ放題と打ち出しているが、急いでお腹いっぱい食べに来たお客さまに、すし屋の楽しみ方を教える。
すしの食べ放題ではなく、すし屋の感動放題を目指しているからだ。
両店ともビュッフェ形式を武器として徹底的に使いこなしている。
しかしホテルの方々はどうだろうか。
ここまで使いこなしているだろうか。
昔、飲食店の業績向上支援をしていた際に「ホテルの人が本気なったらかなわない、でも本気ではやってこない」と言っていた。
彼が言うには外に向かって徹底的にアピールされたら太刀打ちできないとう意味だ。
彼の意見には一理ある、と私は聞きながらそう思った。
しっかりと作りこまれた食事をしようとしたら、そもそもお店が少ない。
最低でも8000 円はする。
その点ディナービュッフェ5000 円は優位性のある商品だ。
しかしホテルの人たちの多くは、ホテルに来る人を対象にしている。
近くに住む人、勤めている人、近隣のホテルに泊まっている人をと対象を広げて考えていないのかもしれない。
東京のとあるホテルのランチもディナーにもお客さまの行列を見ながら、このホテルは、近くに住む人、勤める人、遊びにきている人、すべてを対象に手を打ってきた結果がでているのを感じた。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 241」2021.10.15】