最利用価値をつきつめる
2021.12.10岡村 衡一郎
ホテル・旅館にとって最も重要な利用価値は何だろうか。
価値を「自分の欲求を満たしてくれる相手の働き」と定義しておく。
私は、おかげさまで、今でも、いろんなところに出張させていただけている。
年間 80 泊から 100 泊の宿泊でホテルや旅館にお世話になる。
なるべく同じところには泊まらないように、ホテル・旅館を探してはいる。
しかし、複数回泊まらせていただくところと、1 回で終えてしまうところに分かれてしまう。
行くエリアは、同じところが多いから、価値と価格のバランスが、今の私にとってベストなところを繰り返し利用させていただく結果になる。
相手にとっての中心を押さえた商品が支持される。
それもお客さまの予算内で最適なものを選ぶ。
お客さまから選ばれる。
これらは、業種や業界に関係なく適応可能な原則だ。
うみの・岩本社長(今まで数回に渡って連載)の自転車哲学「目的地に安心してたどり着けること」であった。
「目的地に安心してたどり着けること」に予算的な制約がなければ、優秀な運転手のハイヤーでいいだろう。
当たり前だが、多くの人にとって毎日の利用は難しい。
毎日の移動を確実なものに、予算内でかなえるための道具が自転車である。
見た目とか、表面的なかっこよさだけでなく、お客さまにとってもっと重要な所を押さえている商品だからこそ、支持されていくものになる。
私が出張で泊まる場合の利用価値は「翌日の仕事に備えてよく眠れること」が最も重要なものになる。
ベッドの質、壁、空調などの質さが、これだけの回数を泊まっていると分かってくる。
そして残った仕事を片づけられるスペースがあれば、なおいい。
プラスアルファで朝食がおいしく健康的で、広さが、立地が、非日常感が、と続いていくが、当然、予算内での制約がある。
繰り返し利用しているホテルも多いし満足もしている。
だが残念ながら、それらの利用価値が深化している、と感じられるところは少ない。
大規模リニューアルをしなければ、深められないと思っているからだろうか。
新聞が選べることも、布団が気持ちよくなっていることも、使いやすい電気スタンドがあることも、私にはありがたい。
もう一回泊まろうと思える理由にもなるのだが、一部のホテルを除いては、この客層にさらに支持されていくには、という掘り下げが少ないように感じてしまう。
少し理想を押し付けているのかもしれないが、フロントで次の予約を「来月はこのようなことやっています。もし、来られる予定があれば予約されませんか」と言ってくれるホテルはないだろうかといつも考えている。
なぜなら、相手にとっての利用価値を深めていくアクションが中心になってくれば、フロントの方が勧めたくなる理由があるはずだと思うからである。
そして私は、またそのエリアに行く理由ができるというループになる。
自分たちのホテル・旅館が、目の前にお客さまにとって、最も利用していただきたいお客さまにとって最も重要な利用価値を、今、どのように定めているだろうか。
そして、近隣の宿泊施設と比べた場合の価値と価格の関係はベストなバランスで提供できた、と言い切れるだけの根拠を少しずつ見直し続けているだろうか。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 232」2021.8.20】