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COLUMN

いい会社づくり通信

年上のメンバーに遠慮しなくなった日

2021.02.01岡村 衡一郎

 以前、A社の社長は年上のメンバーに遠慮して物が言いにくかったという。
もっとこうしてほしいと伝えるのが、相手の腕や考えを否定してしまうことにつながってしまうのではないか、と考えて我慢していたのだ。
しかし、意見を言う方向と理由を見つけてからは、遠慮がなくなっただけでなく、互いの技術を高め合う関係に発展していったそうだ。

 A社は食品製造販売業を営んでいる。
職人がつくる商品を店舗や通販、イベントなどで販売する地域の一番店だ。
販売価格は、下は180円から上は1万円までと幅広い商品をつくっている。
一つ一つが手づくりだから、厳密に言えば同じ商品は一つもない。
職人さんの個性が商品に宿るからである。
商品≒その人という側面から、A社の社長は、遠慮しているのである。

 しかし、ある日を境に、年上の職人さんに遠慮していたのではなく、ほかに理由があることに気づけたそうだ。
遠慮は表向きな理由。
本当の理由は、自分が商品に向き合う姿勢に欠けていたと思えたそうだ。
遠慮してしまうのは、相手のせいではなく、自分が本当にいい商品を届けようとする思いの欠如に理由を置いた。

 このことに気づけてからは、相手と向き合うのでなく、商品を間に置いて、お客さまの方を向いて相手と向き合う。
向き合うのは一緒でも、方向と対象を大きく変えることができるようになった。
単なる指摘ではなく、同じ方向を向いた同志としてのかかわりに関係が深まっていったという。

 この商品なりサービスをさらによくしていきたい。
そのためには、ここを直してくれないかというアプローチは関係を変える。
このエピソードは、年上の部下を持つ人だけでなく、多くのマネジャーやリーダーにとっても示唆があるのではないだろうか。
特に、上司と部下の関係が長い期間であればあるほど、互いに発展していくようなかかわりは、一般的には薄くなっていくし、相手の弱いところへの介入も少なくなっていく。

 お客さまに向けてという大義名分を忘れて、精神論で、もっとちゃんとしてくれ、とか、若いころの教育がなっていないなど、人格形成に入ろうとしてしまっている上司も、たまにお会いする。
私は、部下の人格がどうのこうのと、問題にする上司ほど、お客さまに向けて商品やサービスをこうしていきたいという視点が欠けてしまっていると感じる。
相手を成長させようと取り組んでいるが、出口が不明瞭なままなのだ。

 遠慮を理由にメンバーへのかかわりを避けてしまうのも、メンバーの弱点を放っておいてしまうのも、メンバーの立ち居振る舞いに必要以上に介入してしまうのも、相手に理由を求めてしまう、自分のコントロールできないところに理由を見つけてしまう点で、似たようなものである。

 お客さまにこんな商品やサービスを届けたい。
この大義名分をもって部下ではなく、商品やサービスを間に置いて改良点を考え、できるようにサポートしていく。
A社社長の向き合い方のシフトは、商品の品質を上げるという行為を通じて、相手の弱点を補っていくだけでなく、自分のお客さまに向かう感度も高めている。
そして両者でお客さまに向かうという方向をもった相手との関係に深まりを持たせていくのだ。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 166」2020.2.28】