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COLUMN

いい会社づくり通信

宮田支店長は、面白く芯をつける人だから、業績が伸びる

2020.11.09岡村 衡一郎

 運送業界で支店の責任者を担っている宮田さんは、若い社員のノリを引き出す名人だ。
業績を伸ばすツボを伝えるために、つねに相手目線、社員目線で考えているから、対策が共有されるのが早い。
本部からの難しい言葉やビジネス用語は、ほとんど使わずに、平易で伝わる言葉を用いて重点施策を実行させる。

 宮田さんの支店では、荷物に適した価格をきちんともらってくることをテーマに、ここ数カ月取り組んで業績を伸ばした。
荷物に 適した価格、という表現が分かりづらいかもしれないので補足しておく。
運賃は荷物の大きさと重さで変わってくるのはご存じのことだと思う。
しかし実際に出す際に、きっちりと測って出す方はどれくらいいるだろうか。
ましてや、いつも出しているならば、いつもと同じ伝票を書いて、値段もいつもと一緒と考えている人も多いと思う。
私も一つ一つの大きさを確認してから伝票を書くこと はない。

 集められた荷物と、その荷物を運ぶための料金を計算すると、100%合わないのが運送業界の常識と言ったら言いすぎかもしれないが、ピシッと合うことの方が少ないのが、ほとんどのお店で 起こっていることなのだ。
ドライバーや受付で受け取った際の計量を100%では実施せずに、常連さんの荷物を受け取ってしまうのがその理由なのだ。

 宮田さんは、誤差が多い部下に「しっかりと計量をしてくれ」と頼んだ。
そのとき部下から「支店長、夏場はメジャーが伸びて、間違えるのですよ」との返答。
ここで大概の上司なら「何言っているのだ、ちゃんと測れ」と返してしまうだろうが、宮田支店長は違った。
翌日の朝礼で「皆にお願いがある」と切り出した。
「今日から全員メジャーを冷やしてから持って行ってくれ」。
言われた 部下は一瞬何を言われているのか分からない。
そのタイミングで、 夏場は暑さでメジャーが伸びるから測量を間違うという昨日のエピ ソードを持ち出した。
今日から出車前に「メジャーを冷やしたかを 合言葉にする」と締めくくり朝礼を終えたのだ。

 大工とつきあうなら大工の言葉を使え。
この比喩を紹介したのは経営学者のドラッカーだ。
相手の世界にある言葉をなるべく使って相手とのコミュニケーションを図れという意味だ。
宮田支店長は、誤差を何パーセントに下げろという、経営側にある言葉は使わない。
指示はドライバーの現場にある言葉にヒントを得た「メジャーを冷やせ」だ。

 言葉はリーダーにとって大切な仕事の道具の一つである。
しかし宮田さんほど現場の言語と経営施策のつなぐ言葉を探そうとしている人には、なかなかお会いしたことがない。
伝わりにくいからと繰り返し説明をするという人には度々お会いするが、翻訳しようとする人は少ない。

 リーダーが推し進めていこうとして、対策の肝を現場目線で表現し直すとしたらどうなるだろうか。
思えば若かりしころ、上司が何を言っているのか分からなかったという経験は少なからずあるはずだ。
コミュニケーションのロスを減らす手は、意外にささやかな所にあるものだ。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 156」2019.11.22】