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COLUMN

いい会社づくり通信

サービス業における戦略とは何か

2020.10.06岡村 衡一郎

 宮島にある旅館菊乃家の夏服を着ている支配人の松本さんがいる。
菊乃家のスタッフは、ユニフォームを自ら進んで着ている。
旅館の在り方を考えるために集まったオフサイトミーティングで、自分たちの存在意義を「ようこそ宮島の我が家へ」と表したのだ。
背中に「ようこそ宮島の我が家へ」と大きくプリントされているのは、彼らのおもてなしコードであり、客数、稼働率、ほかの宿泊施設との差別化を図るための戦略ではない。

 私は以前から戦略やターゲッティングという言葉に違和感があった。
戦略もターゲッティングも、もともと軍隊用語からの引用であるからだ。
サービス業を営む方々にとっての戦略は、仕事を進めていく際に、サービスを深めたり、生み出したりする際の判断基準であってほしい、と考えてきた。
そんなもやもや感覚を菊乃家の取り組みは晴らしてくれた。

 旅館・菊乃家にとって戦略は競争優位を導くためのものではないし、ターゲットも存在しない。
お客さまは、自分たちの旅館に来る人たちだけに限定はしていない。
菊乃家アクティビティーは、 宮島に訪れるすべての人たちをお客さまに考えている。
リネン担当の方が習字教室を、女将が抹茶教室を主催したりしているのは、宮島の滞在時間により楽しみをもたらすために行なっている。
夏休み期間中に実施していた縁日は、もちろん、菊乃家以外に宿泊している子供たちもウエルカムである。

「ようこそ宮島の我が家へ」と胸を張って言い切るために、朝食はどうあった方がいいのか。
お米は選べた方がよくないか。
釜で炊いた炊き立てを楽しんでほしい。
お出迎えの言葉は「おかえりなさい」と言ってみようか、観光の案内は、ならではの一言を添えて、などなど、菊乃家にとっての「おもてなしコード」は、次々と既存サービスを深める、新サービスを生み出すガイドとして機能している。

 サービス業における戦略とは、そこに属する人たちが、サービスを深めるためのもの、または、新サービスを生みだすために機能していくものがいいだろう。
マニュアル外のサービスにつながる媒介が本来の戦略コードであるべきだ。
旅館・菊乃家での取り組みは、通常の戦略論とは違う、本来の意味を私に教えてくれ た取り組みであった。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 151」2019.10.18】