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COLUMN

いい会社づくり通信

自分の器を広げる二つのアプローチ

2020.09.23岡村 衡一郎

「私は課長にぴったりで部長の器ではないかもしれない」。
課長の高田さんは、ここ最近、自分の器を課長サイズだ、と悩んでいる。
高田さんは課長になって3年目、率いるセールスユニットは、昨年対比で業績を伸ばした。
自ら人も採用し、その人の成長にもかかわっている。
経営者から見れば頼りのリーダー、部長候補の一人なのだが、高田さんは自分の評価を決してそのようには考えていないようだ。

「器を広げるには苦手だと感じている人と向き合うことだ」。
高田課長の悩みに対して、高田課長の上司、武田社長からのアドバイスは具体的だった。
武田社長は、後継者として若くして社長になった人だ。
故に社長ができる器ができる前に社長業をしなければならなかったから、自分の器で悩む高田課長の気持ちが人一倍分かるのだ。
30代で社長となりベテランのエース級である50代社員を率いていったのだから大変さが分かるだろう。

 かつて経営学者のドラッカーは、毎日鏡の前で、今日はリーダーにふさわしい自分だったか、と振り返る時間を絶えず持つように、と言及していた。
理想のリーダーに近づくための振り返りの時間を取るようにとのアドバイスは、明日の自分のイメージをもって仕事に臨んでいくために成果を残していったリーダーの多くが実践してきたことから出てきたものだ。

 社長としての器を手に入れる。
この抽象的テーマを考え抜い た武田社長は、実務面とマインド面に課題を立てて取り組んできた。

 実務面のアプローチは自らが手本になることだ。
具体的には、最高の仕事を知り、そのレベルに近づけていくように努力してきた。
世界一レベルの仕事をしてきたモデルを複数人見つけ、その人たちから学び、トコトン自分の仕事に反映させて、仕事の精度を高めていった。

 マインド面のアプローチは好き嫌いに振り回されない自分になることだ。
イエスマンとのつき合いになっていくことから逃れるためだ。
具体的には。苦手だと自分が感じている人と向き合う時間を増やすこと。
一緒に何かを決めること。
そして、後押しをしていくこと。
これらの対策を通じて、全員と等距離で人の後押しができるようになっていったという。

 武田社長は高田課長に「課長の器しかない自分がいると思える高田さんにはリーダーの器がすでにある」と切り出して、苦手な人と向き合う必要性を説いた。
高田課長の唯一の弱点、自分よりも先輩社員に遠慮してしまうことや、メンバーとの付き合いに濃淡がでていることを見越してのアドバイスだった。

 部下を選ぶことはできない上、その部下のリーダーをやらせてもらっている。
この認識が持てるか否かが、高田課長の成長課題だと武田社長には分かっている。
自分の器。
器の枠を決めている自分の好き嫌いの克服法は、苦手だと感じる人を通じて、自分の好みに気づくことがはじまりになる。

 自分の好き嫌いよりも優先すべきことに気づける自分になる。
自分の好みを分かって、相手が大切にしていくことを理解しながら対応できる自分になる。
高田さんのリーダーの器を広げる旅は、社長の後押しを受けて、続いていく。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 149」2019.10.4】