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COLUMN

いい会社づくり通信

存在を表現する媒介としての夏服 旅館菊乃家

2020.08.11岡村 衡一郎

 宮島にある旅館菊乃家の制服がある。
この制服はサービス革新のために行なっているオフサイトミーティングで生まれたアイデアをかたちにしたものだ。
夏季期間に使用するポロシャツの背中に、ようこそ宮島のわが家へ、とプリントした。
宮島のわが家へという言葉は、旅館菊乃家がサービス革新の一丁目一番地として、大切にしている言葉だ。

 制服に自分たちの理念を言葉にして示す。
これは、お客さまにはもちろんだが、社内へ向けた確認メッセージである側面も大きい。
互いの背中の文字を見せ合いながら仕事をすることで、理念を紙に書いたものではなく実践するためのものにする。
そのための手段として互いの見える位置においているという意味合いの方が強い。
だからこそ、制服を着せられているという感覚はない。

 制服に何かを書いたという話が、今回のメッセージではない。
街頭での販促キャンペーンなどで、ハッピや帽子などに、商品名なり、キャンペーンの内容なりが書かれたものを身につけているのを見る機会があるだろう。
その中で、身につけるという行為が、目立つため以上のものになっているのは、どれくらいあるのだろうか。
私には、目立つためのものにしか見えないものばかりだ。

 菊乃家の夏季制服は、目立つためのものや販売促進のためのメッセージはない。
絶えず、サービスの原点に立ち返るためのものだ。
そして夏季限定だからなお良いのだと私は思う。
この制服が常着となれば、また風景の一つに埋没していって、何を示しているのか分からなくなってしまうからだ。
サービス改善や見直しが、全員の日常の取り組みとなっている菊乃家では、次々に改良のためのアイデアは、どこからでも生まれてくる。
そして皆で話し合っているからこそアイデアの多くは実践に移される。

 普段なにげなく選択している服装。
ここでの工夫は十分可能だ。
年々暑さの増してくる気候にスーツと着物で接する以外の選択肢は増えている。
衣替えを真の意味でのサービス革新つなげているのは少数派かもしれないが、制服を変えるという手段を通じて、自分たちのサービスそのものを見直していくきっかけにすることは可能だ。

 旅館・菊乃家は、ようこそ宮島のわが家へ、というサービス革新の一丁目一番地を大切にして、あらゆるところでトライを忘れない。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 143」2019.8.23】