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COLUMN

いい会社づくり通信

ある種、我慢くらべです。

2020.08.20岡村 衡一郎

 事業のイノベーションをリードする人には未来のイメージがある。
こうしたら業界一だ、とか、ここまで持っていくにはこんな手順で、などの未来を先取りしたスケッチを持っているだろう。
しかし、リーダーの言っていることは、メンバーには、まだ分からない。
やったことがないことに対する理解がない。
この一方通行の関係を説得だけで打破するのは難しい。

 リーダーは、イメージが先にあるから、自分が描いた未来像に向かって仲間の参画を促していく場面はどうしても多くなる。
しかしトップダウンで強引に進めていっては、打ち上げ花火のような瞬発的な変化になりがちだ。
時間を先取り、未来のイメージと同様に、実行に移せる人の広がりが、必要になってくる。
メンバーがその気になって取り組んでいる状況が続く変化の基盤として必要なのだ。

 山川社長は、変化の基盤づくりの名人だ。
今まで3社の社長を歴任してきているが、いずれの企業でも、その気になってチャレンジする社員が大半を占める。
何かを変えることが当たり前の仕事になる、昨日とは違う試行錯誤が仕事に取り入れられて いく変化を歓迎する風土をつくってきているのだ。
今回、改めて変化を日常にする秘訣について聞いてみた。

 山川社長の第一声は「自分の言ったことを分かってくれるという期待が変化を遅らせる」だった。
未来を共有して社員と共に進めていけるようになることは、誰もが目指したいところだ。
考えを共有せずに進めても、おのおのからアイデアが飛び出てくることは皆無で、変化は何も進まない。
変化する風土づくりの一番の秘訣は、ある種の我慢くらべにある、と山川社長は言う。

 我慢くらべ。
この回答に、拍子抜けした人もいるかもしれない。
だが、我慢くらべには、いろいろな意味が込められている。
一つ目には、人の認識が変わる、自分が今まで意識していなかったことを意識するようになるのは、ある体験が伴わなければ難しいこと。
二つ目は、その人のアンテナが立っている状況がなければ、変えるためのシグナルや材料を見過ごしてしまうこと。
三つ目には、誰もが一生懸命に仕事をしているし、今のやり方が正しいと思っていることだ。

 山川社長は、変化を日常にする風土づくりを大きく二つの方向で行なっている。
ミクロには現場を回り、一人一人に次の仕事のし方のヒントを出し続ける。
出したヒントを忘れずに次に会ったときに、もっといいやり方があったかと確認する。
マクロには全員に、昨日と今日は何を変えましたかと問いを立て、どんな些細な変化でも、〇〇さんの取り組みは新しいと、みんなの前に事例として紹介していくことを忘れない。

 よりよくしたいと思っていない人はいない。
でも、どうしたらいいのかが分からない。
次の姿がイメージできれば多くの人は新しいことにトライできるようになる。
これは山川社長の口癖である。
昨日よりも今日、今日よりも明日、仕事の質を高めるコツコツイノベーションの取り組みは、相手の認識を変える、正確には新たな認識が加わることでしか到達できない。
我慢くらべという変化の秘訣は、相手を否定せずに、変化軌道にもっていくための一番 のものであるのだ。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 144」2019.8.30】