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COLUMN

いい会社づくり通信

ほぼ定着率100%の会社は、情報共有をこう考える

2020.07.27岡村 衡一郎

 中国地方に社員の定着率が、ほぼ100%の企業がある。
サービス付き高齢者住宅や高齢者向けデイサービスを営む企業Aだ。
一般常識では、介護業界の社員定着率の低さは、いたしかたないとされる。
業界でA社のように、定着100%を本気で目指している所は、ほかにあるのだろうか。
社員が定着する秘訣はいくつもあるが、その中でも、学ぶべきは、情報共有に対するこだわりだ。

 一人の利用客に多くの社員がかかわる業界で、情報共有の大切さを疑う人はいないだろう。
連絡ノートを用いたり、早番と遅番の人の入れ替わりのミーティングの質を高める努力をしたり、会議を増やしたり、と各社各様に取り組んでいると思う。
だが、なかなか質が上がってこないのが情報共有という、誰もが大切だと感じながらも、そもそもの内容が見直されないアクションかもしれない。

 A社は、情報共有をという言葉を、突っ込んで掘り下げている。
退社の理由をつくらないための根源的な対策として情報共有をとらえているからだ。
人間関係で悩んで辞めていく。
サービスを見直す時間が取れないことにストレスを感じてほかに移る。
就業時間が長くて体力的に続かなくなってほかの仕事を選択する。
そして、仕事そのものが嫌になって会社を辞める人は、ほとんどいないことを知っているからだ。

 仕事と人間関係を円滑に発展的なものにするために、A社では情報共有の中心を次の五つに置いている。
職場の人間関係を良好するための情報共有。
利用者の状態を共有するための情報共有。
利用者の家族を含めた背景を知るための情報共有。
社員が迷わないための情報共有。
パートナーである医師や看護師と連携するための情報共有。
これらの中心を押さえた情報を、どこからでも取り出せる仕組みを組み上げてきた。

 何のために、どんな情報を共有すべきか。
しかも手間をかけずに簡単に。
A社の情報共有の仕組みは、最善のサービスを、最高の仲間で行なっていきたいという、介護の仕事の出発点に多くの人が抱く思いと共鳴する。
仕事をしながら、どこからでもアクセスできて簡単に入力できる仕組みは、余分な作業をそぎ落とし、サービスの質を高めるための楽譜のように機能している。

 サービスにかかわる人が、同じ情報を持てれば、同じようにサー ビスができる。
同じ情報を「私は聞いていない」ではじまる人間関係の亀裂を生まない。
100ある情報の内、何のために、どんな情報を共有すべきかを考え抜いた上で絞り込んだ2割の情報が、仕事と人間関係を円滑に発展的なものにするためのインプットになっている。

「将来自分が入りたくなる施設にしよう」。
A社のサービス改善のアクションは、ノイズのない情報の共有に支えられている。
職場の人間関係を良好にするための情報共有。
利用者の状態を共有するため情報共有。
利用者の家族を含めた背景を知るための情報共有。
社員が迷わないための情報共有。
パートナーである医師や看護師と連携するための情報共有。
社員の定着率がほぼ100%のサービス業がこだわってきた、これらの五つの情報の中心という考え方は、多くのホテル業、サービス業の方々に応用できるものであるだろう。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 141」2019.7.26】