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COLUMN

いい会社づくり通信

楽天アワード受賞 旅館「菊乃屋」の挑戦 前編

2020.04.06岡村 衡一郎

 広島県の宮島に、小柄で個性的な旅館菊乃屋がある。
企業の保養所を買い取り、「ようこそ宮島のわが家へ」という思いを込めて旅館を開業させた創業者。
後継者の菊川さんは、先代の思いを引き継ぎ、さまざまな工夫を凝らしてきたことが、今、実を結んでいる。
宿泊者のアンケートでは、おもてなしに高い評価を得ている。
おもてなしの高評価の源泉に、菊川社長の一人一人のサービスを花開かせるプロデュース能力がある。

 大手ホテルチェーンに長年つとめていた松本支配人も、菊川社長のもと花開いた人の一人だ。
松本支配人がかつて十分に発揮できなかったサービス哲学は、菊川社長との化学反応で、大きく花開いている。
松本さんがホテル業に就業しようと決めたころの思い、こんなことをしてみたい、あんなことをしてみたい、といった青臭い話を聞きながら、マニュアルの中に閉じ込めてしまった、サービスコードをひも解き、実践に移せるように後押しをしてきたからだ。

 プロデュースされた人は、プロデュースもうまくなる、菊川社長と松本支配人は、タッグを組んで、一人一人の個性を生かしながらのサービス改革を段階的に進めている。
第一弾は、お客さまの名前を、全員が呼べるようになる後押しからはじめた。
清掃担当の人も、配膳の人も、調理の人も、すべてのスタッフが、お客さまの名前を呼べるようになるための仕掛けはもちろん、声掛けのトーンやタイミングを、その人の個性が生かされ、お客さまも心地よい状態を目指してのサービス改良を行なっていった。

 名前を呼ぶ行為は、お客さま一人一人を見て、一人一人の違いを理解する眼を養い、お客さまの瞬間的ニーズをキャッチするアンテナを磨いた。
第二段階の改革は、親子2世代、3世代の満足が最大化するための、細部にわたっての商品・サービスの改良だ。
手始めに、お客さまになりきって考えることから始めた。
自分の両親を連れてくるなら何がいるか。
どんなことをして欲しいと思うか。
これらの問いを立ててスタッフ全員でじっくりと話し合いを重ねていった。

 対話を経て、決めたことは、その日の晩から開始する。
部屋のしつらえ、料理の内容、おもてなしの質など、あらゆるところを、親子2世代、3世代の満足が最大化するために、コツコツとイノベーションを繰り返している。
全員参画型での商品・サービス 改良の結果が楽天アワードだ。

 瞬発的、刹那的なサービス改良に終わらない理由は、頼もしい人材、料理の改良に責任を持つ人、サービスアップの責任者、売店の品ぞろえをトコトン考えてくれる人、これらの人材が、次々と現れてくる社長と支配人のプロデュース能力にある。
そして、お客さまの名前を全員が呼べるようにする、というベースづくりなしに、旅館の質を上げていこうとしたところで、今のような評価には、つながらなかっただろう。
ゆっくりアプローチ。
早いアプ ローチ、会話を望んでいる、望んでいない。
スタッフは、相手の「欲しい」に、思いをはせて、考えて動く風土になっているゆえに強い。

 改革の第三段は、宮島を盛り上げるハブ機能を担う宿になる、と旗印に掲げ取り組んでいる。
後編で紹介したい。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 127」2019.4.5】