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COLUMN

いい会社づくり通信

楽天アワード受賞 旅館「菊乃屋」の挑戦 後編

2020.04.21岡村 衡一郎

 サービス・イノベーション48手・127で、旅館「菊乃屋」の 挑戦の前編を紹介しましたが、今回・128は、その後編をお届けする。

 前編で触れたのは、主に三つだ。
一つ目は、料飲スタッフも、接客スタッフも、営業も、清掃担当も、全員が宿泊されているお客さまの名前を呼べるようにすると決めたこと。
二つ目は、名前 を呼ぶという行為が、お客さまごとに異なる旅館に求めるサービ スの質的違いを理解して、行動するというサービス感度を高めていったこと。
そして三つ目は、3世代の家族に向けたサービス改良を、朝食、売店、接待など、それらの領域を社長や支配人に頼らずに、責任者が最適に仕上げていく取り組みをリードしていると触れた。

 これらのサービス改良の積み上げが、サービスの主役をつくり、楽天アワードの受賞はもちろん、居心地の良さが評価されるようになっていった。
背景に、若手社長の菊川さんとホテル業界での経験豊富な松本支配人がタックを組んで、社員一人一人の適性を考え、部分の責任を任せて、バックアップしてきたアクションがある。
二人が社員一人一人をプロデュースしてきた結果、菊乃屋にはミニ社長、ミニミニ社長がたくさん出現している。

 定期的にみんなで集まってサービスの改良のアイデアを出し合って、各責任者が決めて形にしていく。
サービス改良の流れを日常の仕事としてできるようになった菊乃屋は、今、自分たちが位置する宮島、商売をさせてもらっている宮島の活性化に一役かうことの模索をしはじめている。

 彼らには、お客さま視点での情報から新サービスを考える習慣がある。
定期的な話し合いの中で、お客さまが予想していた以上に喜んでくれたことや、質問されたこと、予期しなかったリクエストなどを共有している。
例えば、浴衣が購入できないかと聞かれた意味。
売店で取り扱っている商品の売れる理由。
特産品のけん玉でミニ大会を企画して分かったこと。
3世代の親子の会話が深まるきっかけとなった出来事。
宮島にきて感動したこと。 これらの情報をもとに、できることを考え続けている。

 現場情報からサービス改良を考える彼らだからこそ、宮島の人たちの技能が新サービスに可能性や十分に知られていない楽しみ方が埋もれているのが分かるのだ。
手はじめに、お客さまが喜ぶだろうリストを作成し、近隣の商業関係者を集めて話し合いを行なった。
そこから生まれつつあるのが、話し合い参加者が先生となっての習字と抹茶の時間だ。
菊乃屋に泊まりに来たお客さまだけが対象ではなく、宮島を訪れる人を対象にしたサービスが近々はじまる。
続いて企画しているのが、料理のミニ教室やナイト冒険ツアーだ。

 旅館「菊乃屋」の“名前を呼ぼう”で始まったサービス改良の取り組みは、社内のプロデュースの枠を超えて、宮島にいる人の隠れていた技能、宮島のすでにあるが隠れている楽しみのプ ロデュースに発展しはじめた。
旅館ならではのふれあいは、地域を巻き込みながら、静かに確実に広がっていくだろう。
地域の活性化は、地域が主語の広がりではない。
一人一人が主役になった商品・サービスの活性化に支えられていくものだからである。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 128」2019.4.12】