なかなか気づけない足元にある「本当の財産」
2020.01.27岡村 衡一郎
人気のロールケーキで、1日に1000人以上のお客さまから支持されるお店に(2/3)
「あなたの会社の財産は何ですか」と尋ねられて、即答できる人は少数派です。
「お菓子の家スワン」店主の石川浩さんも、まさにその一人でした。
石川さんが自社の財産を探し当て、会社に眠る財産を掘り起こせ! に掲載している繁盛店への道を切り開いていったプロセスを3回に分けて紹介。
今回は第2回です。
さっそく、財産探しに取りかかりました。この時点で、お菓子の家スワンは、創業24年です。
私がインタビューする形で、「洋菓子とお客さまの関係」「自分の努力」「主力商品」の三つを縦軸と、「修業時代」「導入期」「展開期」「安定期」の四つを横軸、 縦4マス×横5マスの合計20マスの図をつくり、時代と行動の意味づけをしながら、財産を掘り下げていったのです。
販売数量は、POSデータがあるわけではなかったので詳細は分かりません。
接客と経理を担当していた真弓さんの売り上げ記録をもとに、4月、8月、12月の3カ月分に絞って商品ごとの販売データを集計しました。
石川さんに主力商品を尋ねると、「ショートケーキです」と言います。
しかし売り上げを集計してみると、ダントツの売り上げを誇る商品ではありません。
そこで「次に大事な商品は何か」と質問してみることにしました。
すると、「菓子店の売り上げをつくる焼き菓子です」とのこと。
確かに焼き菓子全体ではボリュームがあるものの、アイテムごとに売り上げは分散してしまいます。
集計し終えたところで一番はロールケーキであることが分かってきました。
けれど石川さんは、ロールケーキに力を入れることに難色を示します。
差別化が難しく、もうけも出にくいというのです。
ならば、内容をよりよくして値段を上げてと、提案したところ、「スーパーがロールケーキを1本200円で売っているのにその値段では対抗できない」との返事です。
そもそも200円に対して、600円という価格で対抗できているとは思えません。
それでも売れているというのは、お客さまが価値を分かっているからです。
第三者からは、分かりやすい状況が、当事者には見えにくいことがあります。
私は質問を続けます。
「ケーキにとって、最も大事なものは何でしょうか」
「スポンジでしょうね。すべてのケーキはスポンジを土台にしているのですから。それに、生クリームやチョコレートの味は素材でほぼ決まるけれど、スポンジだけは焼き加減。職人の腕が勝負です」
「焼きに関してかなり研究したのですか」
「かれこれ30年になりますかね。修業時代に師匠に『スポンジがケーキの命』だとたたき込まれましたから」
焼きの技能が財産であるのは、一人で考えていても見えにくいものです。
話をしていく中で、石川さんが確立した、あらゆる状況に応じて最適な火加減を可能にする1500通りの調整法の価値が見えてきます。
天候や素材の状態、焼き上げるスポンジの種類に合わせた微妙な火加減の調整の記録は段ボールにどっさりと保管されていました。
しかも「窯のメーカーから調整を伝授して欲しいと言われた」 と、プロが認めるレベルにあることをさらっと口にします。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 118」2019.1.25】