金城さんの主体性はどこから来たのか
2019.07.16岡村 衡一郎
ある会社の金城さんは、ここ数カ月間で仕事ぶりが変わったと社内で評判の人である。
以前は、担当以外の仕事で、気になることがあっても遠慮してしまう、という理由から、口をはさんで来なかった。
今は、他部署の仕事にも、遠慮なく意見を言うし一緒に考えてできる限りのことをする。
覚醒という言葉が、ぴったりとあてはまるように全体をリードしている。
「お客さまと私は同じだと思えた。
だからこの商品のお客さまは私だから広めたい」と金城さんは口にする。
「仕事との格闘の疲れを、この化粧品はいやしてくれる、それにフォローアップをしてくれる担当の方との会話に元気をもらえる」。
お客さまインタビューで、自社商品の良さを熱心に語る人との出会いが、思いを深めるきっかけをくれた。
いいところまではやれるのに、最後の一手を詰め切れない。
ここが分かれば金城さんは必ず花開く。
本人の能力を本人以上に見ていたのは社長の川畑さんだ。
社長は、お客さまに化粧品のパンフレットなどの制作を任せてきた。
よくできているのに最後の詰めに甘さが残るもどかしさを感じながらも、活躍しやすい環境をつくり続けてきた。
覚醒する一歩手前まで来ていた金城さんに、お客さまインタビューの機会を作ったのも社長である。
金城さんは、顧客インタビューを通じて外から内を見た。
自分が想像していた以上の評価に自信を深めると同時に伝える広める販売促進の意味を再認識した。
現在の金城さんの仕事の原動力は「私を助ける」である。
以前の最後の詰めの甘さの原因は、迷いにあったと言えるだろう。
どんな企画で何を伝えるのか。
ここに正しい答えがあるはずもないから、最後は、メンバーとの相談で決めればいいと、無意識に逃げてしまっていたのだ。
「私ならどう思うのか」。
この基準を強く持った金城さんは、最後の詰めをあきらめない。
色や言葉選びが本業だが、企画の内容、商品改良のアイデア、アフターフォローのし方など、自分の担当以外の仕事にも、首を突っ込んで一緒に考えている。
多少の摩擦を、よい商品と、伝えるための販促企画につなげている。
成果は、商品力×売場力×接客力×販促力で決まる。
販促力アップが担当だった金城さんは、販促から、すべての前行程に介入する。
成果は上々だ。
誰のために仕事をするのか。
それは社長のためではないし会社のためでもない。
「どうしたいのか」と問いかける川畑社長に「私を助ける」という素朴だが芯の強い答えを持った金城さんは覚醒した。
上の顔を気にしないでいい。
同僚にも遠慮せずに、お客さまの感動をつくるために侃々諤々の納得のいく議論を経て、対策が決められる。
理念に掲げる全員主役の感動企業をリードする存在になっている。
仕事の意味や目的を持てた人は強くなる。
金城さんを半年前から知る私は改めて感じた。
当たり前だが、お客さまと自分の重なるところが多ければ多いほど主体性は喚起されるのである。
どうしたいのかを問いかけ、自分が決められる環境をつくり続けた社長が主体性の母ならば、お客さまの感情移入的な認識は主体性の父である。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 094」2018.7.6】