強さの限界点にやさしさと思いやりが生まれる
2019.07.08岡村 衡一郎
事業の実践を突き詰めて考えれば、誰が、何を、どうする、の三点に集約されます。
「誰が」には選択肢はありません。
言うまでもなくオーナーシップを発揮していく私たちです。
「何を」にはいくつかの選択肢があるゆえに迷いが生じると思います。
第一ボタンを掛け違えれば、すべてがずれていくように、何を選択するのか。
この時点で成果の半分が決まります。
会社の戦略的な取り組みを何から始めるのか。
対象の選択は、滝つぼを上から下に降りていく水のような適切な筋を見つけてからがいいでしょう。
何かをくみ上げていくには「あるもの」からがいいでしょう。
願望が先だった、あこがれからくる、ないものを埋めにいってもうまくいかないことが多いからです。
A はだめだからB になるのだ、というような、現実否定を戦略的なテーマに設定しているケースに、私が遭遇するのは決して珍しくはありません。
それは「あるもの」は、水や空気のようにあって当たり前で、今ある理由を掘り下げて見つめ直す必要性がないことが多いからでしょう。
現在、利益 5 倍を実現したアルミックでも、革新を意識して取り組みを始めた当初は、「ないものを埋める」を戦略化していました。
新社長にとっては先代ができなかったことに目が向いてしまうのも仕方のないことかもしれません。
アルミックには、強さがありました。
半面、やさしさや思いやりは不足していたのが 8 年前です。
新社長は、やさしさや思いやりを持った社風をつくりたいと、多くの社員と向き合ってきました。
しかし、時間をかけた割には成果につながらない。
互いの意見をだして、全社最適を考えようとしても、本気でついてくる社員ができなかったのです。
今のアルミックは、やさしさか生まれる部門や立場を超えた協働した取り組みや、お客さまへの思いやりを形にした手すりの改良版や新用途に展開した新商品をヒットさせています。
それは、強さで挑める限界点までいくことを、7 年前の新社長が決めたからです。
今の強さで伸ばせるところまで業績を上げると戦略会議で決めました。
7 年前の合宿で、新社長は、あるものを徹底的に伸ばすことを決めたのです。
あるものを伸ばす=強さで戦うは、当時のアルミックを支えていた真の強みです。
「ない」と感じていたものの多くは、当時は、本当に必要な段階ではなかったのです。
協力が不十分でも新商品開発が多少遅れていても、今の目標を達成するには、本当には困っていなかったのです。
アルミックの強さで戦いながらN 倍に伸ばすという戦略的テーマは、ないものを身に付けていかざるをえない、前を向いて困る状況をもたらしました。
お客さまをみる感度の高まりや、仲間への思いやりを伸ばす過程では、自分達が身に付けるべきことへ感度を高めたのです。
「何を」の選択は現状否定の裏返しや「ないものねだり」となると、成果までのプロセスは難航するか迷路に入って立ち消えになります。
よい社風は、強さとやさしさと思いやりの接点からうまれます。
強さの限界を知ることでやさしさや思いやりの必然性を感じることができるのです。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 093」2018.6.22】