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COLUMN

いい会社づくり通信

先達の実践を今に

2018.06.25岡村 衡一郎

 イノベーションが特別なことではなく、日々の取り組みになっている企業には、変化を起こせる仕事のカタがある。
先達から引き継がれた着想と展開が、商品開発プロセスや営業プロセスに引き継がれている、
ある自動車メーカーにとっては改善が、ある菓子メーカーにとっては創意工夫が、仕事そのものであるように。
変化への価値観は共有され、実践される。

 仕事のカタは借り物でないがゆえに熟成し企業の独創性の源をなす。
カタの出発点は創業時点にさかのぼる。
事業を起こし市場を獲得していくまでの間、繰り返されてきた試行錯誤中での最高水準の仕事を今に再現するための道具がカタである。
時代を切り拓いた先達の意図と方法を、後輩の人たちが変化を起こすためのメソッドとして活用されている故に強い。

 他社の成功例をフォーマットにして売り物にしているコンサルタントもいる。
しかし導入しうまく使いこなせる企業の方が少ない。お
およそ一発の打ち上げ花火で、目新しさがなくなった時点で、活用されなくなる。
着想と方法論はある程度正しくても、自社の歴史と地続きではないから熟成させることができない。
他社の先達モデルを自社展開するのは難しい。

 10年、20年と事業が続いていれば、どの企業にも市場を開いた最高の水準の仕事がある。
誰かのこだわりの仕事がある、なければどこかで終わりを迎えているはずだ。
しかし、誰かの最高水準の仕事を、意図的に組織的に深め展開していこうとしている企業は少ない。
ある人の特別な仕事という範疇に収まっているか、その仕事のすごさに気づけないままでいる。

 メーカー Aはある領域でシェアナンバーワンを獲得している。
しかし、なぜそうなれたのかの掘り下げが不十分なままに仕事を続けてきていた。
言葉として自分たちの良さが共有されていないから、それぞれの仕事が複層的にかさなる部分が少なかった。
先達が残してくれたビジネスモデルのままの運営では、革新のターゲットは現状否定で成果でずの悪循環が続いていた。

 現状否定の NOT·A や借り物のイノベーションフォーマットの導入では、変化を起こすための原動力になりにくい。
変化を起こす原動力は「なぜシェアナンバーワンになりえたのか」を探りだしに宿る。
彼らは歴史を掘り起こした。創業から今までの先達の仕事で転機をつくったものを集め、背景にあった意図に思いをはせた。
その中で見えてきたのは創業者の存在であった。
「お客さまをよろこばせる努力をともに」。
数 10年前の経営方針の片隅に書かれた言葉に、創業メンバーが、商品に込めた思いを見つけた。
いまは昔ほど十分にできていないが先達の後ろ姿で実践のイメージはできる。
これからの仕事で熟成させていく判断基準はここにある。
お客さまの喜びに思いをはせ何ができるかに知恵を絞る。
A社は変化の軸をつかめたのだ。

 先達が取り組みを今に。自社ならではの方向感を磨き込んでいる企業にとって変化は日常だ。
ある自動車メーカーが「徹底的な改善」で世界一に、ある菓子メーカーが「全員での創意工夫」で日本一になったように、
A社の取り組みは始まったばかりだが、「お客さまをよろこばせる努力をともに」が世界に出る日をつくるだろう。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 041」2017.4.28】