情報の変化が仕事の当事者を作り出す
2018.06.04岡村 衡一郎
やる気がない。視野が狭い。思考が浅い。これらは部下の立ち居振る舞いに不満を持つ上司の三大不満だ。
かたや部下の方では次のような、もやもや感を抱いている。
やる気がないわけではないのだ。
他部門の仕事が見えない。
一体全体、何に力を入れればいいのだろうか。
上司が感じる不満と若手のもやもや感は一対で凸と凹の関係のようにかみ合って動かない。
もっとやる気を出せ、視野を広く持て、深く考えろ。私も新入社員のころに先輩からそんな指導を受けた覚えがある。
自分の至らなさを感じつつ、空元気を出したところでできるのは、大きな声で返事をするとか、駆け足で指示を受けに行くことくらいだったような気がする。
仕事の質を変えるための手立てを持てないままに、同じことを繰り返していた。
やる気はない訳ではない。
このメッセージは仕事の意義をつかめない現状を表している。
他部門の仕事が分からない。
この嘆きの背景に自分の仕事が他部門にどう生きているのか見えない現実がある。
何に力を入れたらいいのか分からない。
この言葉の裏側に空回りする自分がいる。
若手が抱くもやもや感は、整った仕組みの中で行なう仕事が作業に化す弊害である。
やる気の問題を精神論でとらえては現実が変わらない。
指摘している方も、される方にも残るのは疲弊感だけだ。
やる気の低さ、視野の狭さ、思考の浅さは結果だと考えれば解決は進んでいく。
低さ狭さ浅さの原因は仕事を誰でもできように組んできた仕組みの弊害。
大げさに言えば頭を使わず手足だけで仕事ができる整備してある環境で起こる全体感の欠如だ。
流通業Aの若手メンバーは、多くのメンバーが持っている、もやもや感を放っておくまいと立ち上がった。
自分たちの未来は自分たちで考えるための未来プロジェクトを立ち上げた。
意思決定にかかわれない現状を嘆く前に、部門を超えて集まり互いの情報を寄せ集めて全体をつかむことを皮切りに、仕事の流れと問題を整理し、解決すべき課題にあたりをつけた。
今まで持ち得ていなかった全体情報がインプットされれば視野の広さは補える。
全体が今までよりも見えるようになれば、思考の深みが増してくる。
自分たちで設定した課題であれば、解決へのエネルギーは持続していく。
若手メンバーが立ち上げた未来プロジェクトは、やる気がない、視野が狭い、思考が浅い、これら三大もやもや感への突破口を開きつつある。
若手の活力アップは、上司のマネジメントスタイルにも好影響をもたらしている。
例えば、情報の共有の仕方を変える、なぜ何のためにと目的を話し合うきっかけをつくったり、やっている仕事がお客さまに他部門にどうつながり、何を成果とするかの議論の場をつくったり、目の前の仕事に当事者意識を持ってかかわれる機会を増やすアクションにつながっている。
繰り返し作業の連続では、誰でも視野や思考は狭くなるし、やる気を高めるのは難しい。
今あるビジネスモデルを、ないときからつくってきた上司には仕組みの弊害に気づけないこともある。
少ない情報で部分の仕事、その集合体のままでは、上司の不満はなくならない。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 038」2017.4.7】