生きた方針で未来を拓ひらく当事者を増やす
2018.01.29岡村 衡一郎
ビジョンがない。
方針があいまいだ。
これらは居酒屋での定番ネタ、今やっていることに違和感を持ちつつも、表では口には出せないからこそ盛り上がる。
しかし企業変革を支えてきた十数年の経験では、未来像を描いた方針やビジョンがない会社は一社もなかった。あったのは引き出しに閉まったままの、一度見たらそれきりの数枚の作文である。
方針があるが方針がないという感覚は、中身を一部の人で決め浸透を図ろうとする結果生まれる。
発信する側と受けて実行する境界線がしかれたままでの方針立案は、アウトプットは魅力の薄いただの紙に変わる。
絵に書いた餅。この状況を変える努力は多くの企業でなされている。
上司からの説明の時間を増やす、期中で方針レビュー会議を複数回実施するなどの試行錯誤が行なわれている。
しかし、いくら理解を促進しても策定への参画と変革意図の共有がなければ生きた方針にはなりにくい。
生きた方針になるには、自分たちは何をしてきたか、これからどこへ向かうのか、たどり着くために力点をどこにおくのか、これら三点が実践する人の間で握られている必要がある。
方針を最終的に決める前の参画がなければ生きないのだ。
変化のシグナルを出し合い、料理して、未来像をつくるプロセスが重要になる。
現場に起こった予期せぬ成功や失敗を一つでも多くかき集め、事象の背景にある意味を掘り起こして方針化していく必要がある。
変化のシグナルは今までの努力を肯定したくなるバイアスが低い若手社員のアンテナに引っかかりやすい。
ベテラン社員は頼りになるが「○○に決まっている」という、ものの見方がどうしても強くなる。
時に目の前で起こった変化の芽がキャッチしにくいから、理想の作文になりやすい。
年長者だけ、いつも同じメンバーで決める方針の危うさがここにある。
テニススクールA社も例外ではなかった。
習う理由は上達にあり。ベテラン社員はなかなかこの考えから離れなれない。
上達が売りのプログラムでは会員数が伸びない状況を打開する新しい武器の発見は、若手コーチも交えた予期しなかった成功や失敗を持ち寄る話し合いから生まれた。
「レッスンに来る日は手帳にハートマークをつけています」。
生徒さんのこの一言に、自分がいつもと同じモードで接していることを深く反省させられた。
こんなに楽しみにしてくれているのに、私はいつも同じ気持ちでいる。
このピュアな若手コーチの反省がテニス本来の楽しさの高度な体感という価値の発見につながった。
テニスが楽しいと感じる瞬間を増やす。
技術に磨きをかけるだけでなく、楽しさも。技術面アプローチからは見えにくくなっていた価値である。
彼らの見つけたチェンジポイントは、楽しさを味わえる「コーチとのラリー」の時間と質を充実させること、そして「上達と楽しさの最大にバランスしたスクールに仕上げる」という生きた方針だ。
自分たちは何をお客さまに届けてきたか。
これから何を届けるのか。
そしてどこに力を入れ実現するのか。
自分たちの変化をけん引する三点が共有されれば方針は生きたものになる。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 020」2016.11.4】