コトから入ってモノを変える
2017.12.11岡村 衡一郎
モノから入るのではなくコトから入る。
世の中にインパクトを与えた変革リーダーは、お客さまの変身を考えた後に実現のためスペックをくみ上げる。
モノの改良を先にするとスペック思考が邪魔をして飛べなくなると知っているからだ。
一昔前マツダは飛べなかった。
世界で売れる汎用的エンジン開発といったモノの改良が足かせとなり個性を失っていたのだ。
安定した品質、コストダウンという着想にお客さまの使用感は抜け落ちた。
挑戦的なエンジニア冥利につきる仕事も影を潜めた。
「Be a driver」。
マツダ躍進の起点であるキャッチコピーは、お客さまにとって退屈になりかかっていた運転を楽しい時間に変えますという宣言。
新型ロードスターは世界で認められた。
初代ロードスターにあった強さ、我先にと技術者が購入していた強さを取り戻した。
運転する楽しさやワクワクを掘り下げて形にするのは、自動車メーカーなら当たり前だと思う人もいるだろう。
しかし、スペックやコストに縛られて自社商品を通じての感覚的な価値が見えくなっている企業の方が実際に多い
のではないだろうか。
他社との競争が前提の市場でスペックや販売価格は避けては通れないのも事実である。
マツダも1ℓで30㎞走れるというスペックを競争に勝つためのキーに、ハイブリッドなき小型車で巻き返したから今がある。
商品スペックと走る楽しさの掛け算でマツダは飛躍した。
イノベーションが不得意な企業はモノに焦点をあてている。
商品・サービスには、二つの価値があるとの認識が薄いのだ。
スペックから得られる実体価値と感覚の変身価値、双方からの掘り下げがなければメーカーでもホテルでも飛ぶことはできない。
都度新しさを提供できているホテルほど変身価値で差をつけている。
実体価値である部屋の広さやしつらえは、おおよその幅に収まる。
再来を促す切り札にはなりにくい。
お客さまからの指名は、そのホテルならではで得られる変身価値の方にある。
リピート率80%を超える板室温泉の大黒屋が、その代表であろう。
訪れたときにお客さまの美意識にいつも違う変化をもたらすことができる。
温泉で過ごせるゆっくりとした時間がいつも変わらぬ実体価値。
常時入れ替わる300 種のテーマを持ったアート作品からの感覚への働きかけが、お客さまにとってのそのときそのときに必要な気持ちを新しくする媒介になっている。
大人のためのファミリーリゾートになるというコンセプトで再生を果たしたリゾナーレも、親子の関係にインパクトを与えるイベントの刷新に手を抜かない。
車はエンジンがハードで運転する楽しさがソフト。
ホテルなら施設が実体価値に、自分たちならではの取り組みが変身価値の源になる。
コトから入ってモノを変える。
商品・サービスのイノベーションは、モノとコトの掛け算、実体価値と変身価値の掛け算でつくられるものである。
オリンピックが過ぎた後も商品・サービスの二面性から価値の見直しをかけ続ければ成熟市場で勝てるホテルになれる。
お客さまはリストで立地と価格を比較しながらも、ワクワクできる体験を探している。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 015」2016.9.30】