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COLUMN

いい会社づくり通信

変化を生みだす「仕事のモノサシ」

2017.12.19岡村 衡一郎

 既存の商品と今いる人員だけで業績を伸ばし働きがいも手に入れた上、過去最高益を達成したある銀行のA支店の取り組みの話をしましょう。

 最高益は、ヒット商品のおかげでも、外部から助っ人を入れたわけでもない。
以前の来店客をさばくような対応はなくなり、お客さまと親しくなるためのイベント、クリスマスコンサートやもちつきなども精力的に行なっている。

 サービス業の視点から見ると銀行は不思議なことが多くある。
緊張感ただよう雰囲気、番号札を引いて無機質な機械音で呼ばれるシステム。
カウンターでは、お客さまが立っているのに行員は座っている。
一円のミスもなく、順番通りに迅速に業務をこなす半面、行員には笑顔の余裕すらなさそうだ。

 かつてのA支店も似たような雰囲気であった。
今は行員も明るく、ゆったり落ち着ける。
彼らが変えたのはカウンターや番号札のハード面ではない。
本当の仕事を進めるため新しいルールを自分たちに課したのだ。
成果のモノサシを「相談に乗れた人数」にすえ、来店客が抱えるお金にまつわる疑問や質問に応じることを第一に、
店づくりと対応をブラッシュアップしていった。

 彼らが定めた成果を測るモノサシは貢献をみるためのもの。
相談が増えれば受注が増えるといった営業プロセスの指標ではない。
「お金とは何か」という問いのもと「夢を叶かなえるもの」という結論から導き出した仕事の力点である。
行動変容を迫る指標ではないからこそ、お客さまと近くなるためのコンサートやもちつきなどのイベントへ幅が広がっていく。

 仕事の意味を出発点に何を増やすのかを納得感のもとに定め直せば仕事は変わる。
預金目的のお客さまにほかの選択肢も勧めていけるようになる。
カウンターでお客さまの会話がはずめば、時間を取り戻すために対応しているスタッフ以外が動くチーム力も育つ。
相談第一、効率第二という判断基準の共有が仕事の質を高める方向に働いていく。

 自分たちが提供している商品・サービスの目的を問い直す機会は少ない。
A支店も例外ではなかった。
以前の彼らが大事にしていた順番は、ミスなく、順番通りに、迅速に。
これらの焦点が、お客さまとの間にある貢献から仕事を離れさせていた。
一方、ホテル業では、下を向くフロント、お客さまの導線をさえぎって朝食を運ぼうとする対応が問題になること
がある。
しかし見方を変えれば、仕事をミスなく早く、皆一所懸命だということになる。
なぜなら、より重要視している方向にアクションが縛られていくものだからだ。

 今は何を大切にしているのだろうか。
仕事の目的と照らし合わせたときにフィット感があるだろうか。
A支店のメンバーは、お金とお客さま、お金と自分たちの関係、お金の目的。
これらの意味を考え大切にすべき瞬間、すなわち「相談」を増やそうとしたことから変化が生まれた。
サービス・イノベーションはお金をかければできるものではない。
「ホテルとは何か」や「フロントとは何か」。
これらの問いから導き出した答えに近づく実践から変化は生まれる。

 貴社にとってどんな「仕事のモノサシ」がベターだろうか。
完璧な答えはないが焦点を当てればいろんなことが見えてくる。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 016」2016.10.7】