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COLUMN

いい会社づくり通信

ヒトとコトを分け、本質に迫る

2017.11.06岡村 衡一郎

 Bさんだからできない、Aさんにしかあのサービスはできない。
ヒトとコトをつなげて語られるのが一般的だが、本当にそうだろうか。
もしそうならリクルートは起業家精神にあふれているなど、会社名を主語に語られる場面はなくなるはずだ。

 高品質サービスを維持させている企業にはコツがある。
ナレッジマネジメントを上手に展開できている企業の代表例がリクルート。
ある人の好事例を、ほかの人ができるようフローチャートに落とし込めるところに強みがある。
ある好事例をAさんだから…で終わらせはしない。
ある人が身に付けた知識を掘り起こし、ほかの人のサービス向上のインプットに変える仕組みで企業の知財に変える。
好事例のエッセンスの凝縮が起業家精神を支えているのだ。

 好事例を掘り下げ、本質を発見し生かす。
このアクションは、あらゆるケースで応用できる。
例えば夫婦関係でもそうだ。
10組も聞けば、補完関係と互いへの思いやりがキーポイントであると分かるだろう。
そして、そうでない場合はそれぞれの理由があるようだ。

 好事例には普遍性があり、そうでないケースは、ばらつく。
いいサービスをしている人、できた瞬間、社内のモデルになりうる事柄に、皆で共有すべき根っこがある。
サービスが深化しにくい企業ほどコトとヒトを結び付けたまま思考停止になっている。
ひどいケースは過去の思い出話で、だれも活用しないまま葬られている。
Aさんだからできるという理由は合理的なように思えるが、好事例を現象でとらえたままでは生かせない。
大切なのは好事例を生み出せたモノの見方と考え方の共有である。

 根っこにある着想を共有できる企業には、ヒトとコトを分離して考える習慣がある。
特に失敗事例は「誰がやってもそうなる可能性がある」という前提にいる。
失敗の振り返りは、人を責めずに問題を攻めるという考え方が徹底されている。
「あの人のせい」がないから「あの人だから」という必要以上の解釈もないから、サービスが深化するのだ。

 偉業を人に引き寄せて考えれば、カリスマが生まれ、あの人の言うことを聞いていればという思考停止にもなりかねない。
失敗を人の試行行動への原因探求がメインになれば、一定の枠から飛び出るアクションはなくなりサービスがマンネリ化する。
好事例の共有のしやすさは、失敗例の原因追求の仕方、すなわち、ヒトとコトを分けて手が打たれる安心感に支えられる。
このコインの表と裏の関係がなければ、好事例の収集を図っても表彰などのお祭りとなりほかの人のサービスを高めるまで発展はしない。

 伝説のサービスを生み出せた瞬間を誰かの話で終わらせてはもったいない。
失敗が誰かの責任で処理されたら冒険はできなくなる。
いいことはみんなでも、いまひとつだった出来事は誰にでも起こる可能性がある。
ホテルとして伝説のサービスをつくり続けるためには、ヒトとコトを分けるという前提が必要だ。

 AさんだからもBさんのせいも最小限に。
中庸から根っこにあるナレッジの掘り起こしがサービス・イノベーションにつながる。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 010」2016.8.19】