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COLUMN

いい会社づくり通信

この一杯をめがけてきてもらえる店に

2022.01.21岡村 衡一郎

 2021 年 10月 2日、関西の住宅街でバーを営む経営者とお会いした。
彼はホテルで長年修行をつんで、年配のバー経営者からお店を引き継ぐ形で、自分の店を開いた。
コロナ禍で客足が途絶える中、テイクアウト販売を通じて、お客さまとの関係を再認識していった。
自宅飲み用に焼き豚をつくって販売したり、弁当をつくったり、その多くが常連さんお買い上げいただくことで今をしのいできた。

 コロナ禍で客数が下がらない店。
逆に上がっている店もある中で、なんで自分の店が下がっていくのか。
外部環境からすれば当然という結論では次の一手が明確にはならない。
考えるにはきつい問いだったかもしれないが、彼と一緒に数回にわたってディスカッションを繰り返していった。
幸いにも奥様は別事業を経営されているから当面の生活には困らないが、いつまでも手伝っている訳にもいかない。

 ここ数か月で、餃子の店、天ぷらの店、ホテルのビッフェ、普段は行くことがなかったホームセンターから、繁盛している食品スーパーなど、時間を見つけて回っていった。
そこで気づいたことを私に定期的にレポートをもらうようにした。
視察をし始めたころは、表面的な内容は多かった。
だが繰り返し行なっていく中で、すべての餃子店、天ぷら店、スーパーが同様に伸びているわけではない、当たり前かもしれないが、その違いに着目するようになっていった。

 お客さまは餃子が食べたいわけではない。
「あの店の」餃子が食べたいのだ。
お客さまは食品スーパーが好きな訳ではない。
「あのスーパーの新鮮な野菜」と、それらをふんだんにつかった総菜をめがけて来ている。
お肉やパンも買って帰っているが、買い物の中心は野菜であることに気づいていく。

 ひるがえって自店はどうか。
「飲みにいく」とか「飲んで帰ろう」を来店の動機にとらえていなかっただろうか。
これだと、客数が伸びていない餃子のある店、天ぷらがある店にしか過ぎず、自分の店は近いのかもしれない。
Bar・Lee。
店頭にたってみたら何が売りなのかは分からない。
メニューを見ても伝わってこない。
「この一杯をめがけてきてもらえる店」。
彼は今日からこと言葉を大切にして経営を再開した。
店頭には、Gin and Tonic with smoke-pork Desert Cocktail Bar・Lee。
コースターやメニューにも、同じように表現した。
そして、数十種類のジントニックとデザートカクテルは、その日その日の季節感や天気、トピックに応じておすすめを変えていく。

 あの一杯を飲みに行こう。
今日はいいことがあったから。あの一杯を飲んで帰りたい。
今日は忘れたいことがあるから。
あの一杯を彼女におごろう。
フルールが好きな人だから。
Bar・Leeは、Gin and Tonic with smoke-pork Desert Cocktail Bar・Lee。として営業を再開した。
コロナ禍でテイクアウト商品として人気が高かった焼き豚は、晩御飯を兼ねたい人への焼豚丼として、JIM Tonic に合うアレンジを加え新展開している。

「焼き豚買いに来たよ、おしかったから」、コロナ禍の救いの声だった。
自分たちのことを何で思い起こしてもらうのか。
いいバーがあったな、では弱いのかもしれない。

 Bar・Lee の経営者が掲げる「この一杯をめがけてきてもらえる店」への取り組みが、今日からはじまった。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 244」2021.11.12】