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COLUMN

いい会社づくり通信

当事者になるための後押し

2021.10.01岡村 衡一郎

 先日、ある駅前のホテル A に宿泊をさせていただいた。
車止めに救急車が止まっていたので、「何があったのですか」とフロントスタッフに聞いてみた。
すると「私には分かりかねます」との回答。
正直な受け答えだとも言えるが、この時期に、救急車を横目にチェックインする人にとって、気にならないはずもない。

 駅が近くて部屋も広め。
しつらいもなかなかという理由で、30泊以上している。
チェックイン時に毎回感じるのは、フロントスタッフとホテルの業績向上のリンケージの薄さだ。
原因は、システムの問題かもしれないし、それ以外の問題かもしれない。
たまに生き生きと働くスタッフも見かけるが、ごく少数派である。

 GoTo キャンペーンを使って、ある観光地のビジネスホテル Bに泊まったときは、驚いた。
全員が話しかけてくるのである。
リネン担当の方も、食事担当の方も、ひと声添えて対応している。
もちろんフロントのスタッフは明るい。
その日は朝 5 時に目覚めてしまった。
特にやることもなく、館内を散歩していると「もうお出かけですか」と、朝食担当の方が厨房越しに声をかけてくれる。

 ビジネスホテル B で、10 時を過ぎたころ、リネン担当者がミーティングをしている風景に出くわした。
そこでは、今日の客数や、明日の予約状況の確認から入って、お客さまアンケートなどの話をしていた。
そしてポチ袋で、満室の成果を分かち合っていた。
部屋をきれいに仕上げることと同時に、リピートしていただくための役割をリネン担当者が担っているのだろう。

 ホテルのレストランのグレード、観光地としてのメジャー度は、ホテル A の方が恵まれている。
しかしホテル A のスタッフは、そのことを活用できていない。
売りにつなげるアクションも少ない。
おそらく、後押しの仕掛けもないのであろう。
「〇〇の仕事をする」。

 ホテル A は〇〇をフロント業務と認識している。
やや言い過ぎかもしれないが、チェックインとチェックアウト、部屋のアレンジにとどまっている。
かたやホテル B は「リピートのための」と認識しているように見える。
だからリネンチームのミーティングで、予約状況の確認や、アンケートの声を確認している。

 旅の満足度を上げていくため、感動や発見につなげていくため、束の間の休息のための、一つの要素として宿がある。
このように、宿の使命をとらえれば、ビジネスホテル B のスタッフは、フロント、リネン、料飲などの役割分担はあるものの、多くのスタッフが使命をまっとうしていくために参画できている。
各自のポジションから少し出て、お客さまに働きかけているのだ。

 昔、組織図は「怠け者に最低限の役割分担を示したものだ」と言った経営コンサルタントがいた。
しかし、何の仕掛けもなければ、与えられた役割≒仕事ととらえてしまうのも人の思考のクセとも言える。
ビジネスホテル B のリネン担当者が行なっていたミーティングは、役割のさらに上の成果に参画するための仕掛けである。

 サービス品質を高める現場の参画は、与えられた仕事のさらに上にある成果にかかわれる具体策、取り組めていると実感が持てる仕掛けに支えられる。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 201」2020.12.4】