話し合いが、噛み合う瞬間2
2021.09.21岡村 衡一郎
今回は、前回で紹介した方針共有の続編である。
前回では、何度も池端社長が話したはずの内容について、各論を話し合い決めていくために集まった管理職が、いま一つ、つっこんだ議論が展開されていない状況にあったことをお伝えした。
そこで一度、下降、各論に下がっていくのをやめて、上昇の論点を持ち込み、対話を仕切り直していくところまでを紹介した。
上昇の論点は、次の通りであった。
Ⅰ.来期方針に対して感じていることを、まず、出し合いましょう。
Ⅱ.そもそも、何のために、来期方針を実践していきますか。
Ⅲ.方針を実践する媒介は、ズバリ! 何にしていきますか。
Ⅳ.数値も大切です。量は数値で測れるとして、質を測るもう一つのモノサシはありませんか。
Ⅰの「感じたこと」は、とても大切なことだと私は思っている。
当たり前だが方針を実践するのは機械ではなく人だ。
自分と方針の距離が近いにこしたことはない。
自分に引き寄せて考える第一歩は、感想を述べ合うことにある。
どう感じているのかを出し合っていき、相手の感想も聞くことで、自分と方針の距離は徐々につまっていく。
仮に反対だとしても、方針に込められた背景、意図を知れば合理性が分かってくる。
賛成だったら、無条件で社長が言っているからではなく、自分としてはこう思うがクリアになっていく。
そして、反対や賛成とは別に、違和感がある場合があるだろう。
「なんかしっくりこない」実は、この違和感こそが、方針実践を成功に導く原石のようなものなのだ。
理由は、完璧な方針や戦略などは当然ない。
何か不足分や、吟味しきれていない部分がある。
方針策定側もそのことに気づけていないときもある。
方針を聞いている側が持つ違和感に、より完璧を目指していくための方針改良の論点が見えてくる。
池端社長の時間軸は 10 年後、管理職の方々が考えていたのは、1 年から3 年。
短い時間軸で必達と考えていた管理職からすれば、方針の中にあるファジ―な部分は見過ごせない。
A社では、Ⅰの感じていることを出し合っていく中で、「現実」と「目指しているもの」のギャップをどう埋めていくのかという発展的議論の足場と、Ⅱの「何のためにやるのか」といった方針の目的についても話が及んでいった。
「方針に近づけていく」。
この感覚の共有が、A社にとって、方針実践への第一歩になった。
方針には二つの出発点がある。
一つは、現実意識に立脚したもの。
もう一つは、可能意識に立脚したものだ。
池端社長の方針は、後者の立ち位置で発信された内容のものが半分以上含まれていた。
時間軸を長くとらえていた社長からは、やりながらギャップを埋めていくと考えていたのに対して管理職は単年度でなんとかしないと思っていた。
着手はするが必達がマストではない項目と、必達する項目。
この仕訳が分かってきた瞬間から方針には夢が宿る。
目指す方向としてのエネルギーが注入される。
自分たちの足場をより強くしていくための必達項目と、トライし変化していく方向として歩み寄った目標。
A社の管理職の人たちは、方針に描かれた未来像の中に、自分の位置と、挑戦する項目を発見することができてきた。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 197」2020.11.6】