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COLUMN

いい会社づくり通信

働き方の改革 序章 あるベーカリーの第一歩

2021.09.06岡村 衡一郎

 中国地方にある地域一番点のベーカリーが、社員と会社の、よりよい関係を目指して、独自の契約関係を目指して、取り組みを開始した。
ベーカーの自立した下連合体をイメージし、店と個人の関係を、上下ではなく、左右の関係を目指しての第一歩を踏み出した。
一般的には、長年勤め上げていくか、独立するのかの2本の選択肢が、業界の常識とされている。
 
 将来は、自分の店を持つ。
夢に向かって、20代、30代の職人さんが頑張っている。
しかし、製造技術が熟した段階で、離職してしまうのは、お店にとっても痛手だ。
それに、独立にはお金もかかるし、家族の理解がなければ進めにくい。
勤めてやっていくにせよ、会社のレシピ通りではつまらない。
自分の技能をフルに試しにくい環境で続けていくのは窮屈だ。

 通常、品ぞろえは会社が決める。
決められたレシピに基づいて、腕を振るっていくのがベーカーの役割である。
毎日同じ品ぞろえで、お客さまを迎えるため、会社としての品質を維持していくため、理由はいろいろある。
だが、職人さんの本領を発揮する機会や、作り手が市場を見て、お客さまの反応を見て、その都度、商品でチャレンジしていく機会は相対的に減っていってしまう。

 考えればいくつものベーカーと会社の関係は一つではないはずだ。
中国地方にある地域一番店のベーカリーでは、職人の独立か継続かの二つの選択肢しかない状況を変えようとしている。
セミ独立、セミ継続、セミオーナー、共同経営、などを現段階で検討した。
職人と対話を繰り返していく中で、最適なのは、共同オーナー的、自立連合的な、イメージだという結論に、今日の段階ではいたっている。

 理由は、責任を力相応に取れること。
商品が魅力的であり続けていくこと。
これらの2点を重視したからだ。
もっといい形が見つかれば、そちらを選択していこう、ということにして、連合プランに向けた第一歩をきっている。
まず、手はじめに、毎日、同じ品ぞろえというルールを止めた。
職人さんの出勤に応じて、20%の商品は変わっていく。
全員では作らないという商品が、店舗の一角を占める。
トライゾーンの設置である。

 ある若手職人のAさんは、トライゾーンで竹炭パンの販売を始めた。
若手職人のBさんは、手の込んだ仕込みに妥協のないパウンドケーキで勝負していくことを決めた。
若手職人のCさんは、自分が一番好きなパン、デニッシュの試作を繰り返している。

 以前の三人は、まじめでパンづくりに一生懸命であったが、競合店調査や今人気の食材、現代の食への問題意識という点では、十分ではなかった。
今は違う。
Aさんは、竹炭は胃袋をきれいにするから週に1回は食べた方が体にいいからと商品化した。
Bさんは人気上昇中の食材をパウンドケーキに織り込んだ。
Cさんは、全国で有名なデニッシュを購入して絶えず研究している。

 「出勤している職人さんによって品ぞろえは変わります。この日にしかないものがあります」。
新しい雇用関係に向かったトライゾーンの取り組みは、確実に、職人的気質のメンバーに、お客さまを楽しませる商売人的気質と比較で購入が決まる市場視点をもたらしている。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 194」2020.10.9】