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COLUMN

いい会社づくり通信

中森社長が、結果、褒め上手になった訳

2021.09.01岡村 衡一郎

「褒めてやらねば人は動かない」と部下に対して、褒めるポイントを日々探している人も多いのではないだろうか。
中森社長もそうであった。
自分から見たら「まだだな~」と感じたことでも、積極的に「うまいね、いいね」と声をかけていたのである。
しかし本意では、そう思ってはいないのだからストレスはたまってくるし、何より、相手の心に響かない。

 ある技能を提供するサービス業を率いる中森社長。
社長より技能にたけている社員は今のところ少ない。
数名のリーダーが、やっと、部分的に社長に肉薄するレベルになっている。
社長にあこがれて入社を決める人も多いのだから、その差が埋まってくるには時間がかかる。
成熟した腕を持つ社長から見れば、部下の改善点はその瞬間に見えてくる。
故に心からの「すごいね」を出す行為自体に無理がある。

 自分にあるものが、自分自身に一番見えない。
中森さんは、ある経営勉強会で、会社の強みの源泉や、今、その人の強みとなっていることと過去の取り組みの因果関係を考えるセッションで、はっきりと認識できていない自分を通じて、ひょっとすると部下もそうではないかと思うようになってきた。

 部下の強みと、その根っこ。
藤川さんは、やさしさが持ち味で、お客さまを包みこむような雰囲気がある。
新村さんは、ぜったいに相手を裏切らない正直なサービスがある。
丸尾さんには、お客さまの反応がみえる、最適なサービスをいつも考えている。
彼らの、自分にあるものは、ひょっとしたら、私の方が見えるのではないだろうか。
経営勉強会でも、自社のことは、なかなか言葉にならなくとも、他社のことは、どんどん言葉になっていく。

 中森社長は、さっそく、部下に対してあるもののフィードバックを始めた。
「藤川さんはやさしさが持ち味だね。きっとお客さまの疲れもいやせるよ」。
「新村さん、君の正直さは感動ものだ」。
「丸尾さん、お客さまはいつも一緒のサービスじゃないから喜んでくれるのだと思う。試行錯誤の姿勢がいい」。
部下に対して、あるものを伝える努力を、褒めるに変えて始めた。

 あるものを伝えられた部下たちは、「うまいね、いいね」の時には、明らかに反応が違う。
自分でも半分は分かっていて、半分は分かっていない、自分の強みの源泉に触れられたことで、自分自身がクリアになるうれしさがあった。
皆、自分自身のことが一番分からないのである。
具体的なサービス技術に対する言及ではなく、存在そのものを見てくれているという、安心感も伝わったのだろう。

「Aさんには、こんなところがあるね」。
中森さんは、褒めるところを探して褒める訳でなく、相手にあるものを伝える。
たまに「ありませんよ」という反応も返ってくるようだが、外したら外したで、部下との対話は深まっていく。
結果として、中森さんは褒め上手になった。
自分にある強みの根っこは、誰にとっても、唯一無二のものだし、生きる上で仕事をする上で、意識的か無意識かは別にして大切にしてきたものだからだ。

 自分にあるものを知って、サービスの深化に生かしていこうという流れが、中森社長のフィードバックからできあがりつつある。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 195」2020.10.16】