相手に歩みよる
2021.08.16岡村 衡一郎
コロナ禍の今も昔もこれからも、お客さまに歩み寄る事業が必要なのは確認するまでもないだろう。
昔も今も、相手、お客さまの欲求を満たすために商品があり、お客さまは、その商品から得られる価値を手にするためにお金を支払う。
しかし、歩み寄り方に最も工夫を要するのが、いまだろう。
これまでと何かを変えて、いまに近づいていく必要があるのだ。
ある高級フレンチ店が、ハッピーアワーをやっている。3000 円でシャンパンが、オープンテラスで味わえる商品は、好評のようだ。
加えて、女性二人で 3 万円のドリンク込みの高級食材を使ったコースも提供している。
一般的な高級フレンチの平均価格からみれば、1/10 で、フレンチ気分が味わえるのが、ハッピーアワーという、お客さまへの歩み寄り方と言えるだろう。
団体客が入ってこない状況を嘆くのではなく、手を打っているのだ。
ある家具店が、最高日販を達成した。
ポケットコイルのマットレスをフレームなしで限定数台ながら 1 万円で提供。
これから必要になるだろう電動ベッドも、思い切った価格から販売している。
お客さまの眠りを考え直す晩夏のタイミングのベッドのセールは好評を得ている。
加えて対面で話すことに躊躇がある今だから、横並びで座れるソファーのお値打ち品を、集めて展開している。
2 社に共通するのは、自分たちの在り方は変えずに、やり方を変えたことだ。
そんな価格でできないではない。
今までの商売の仕方と異なる、ブランド棄損だ。
これらは、商品の提供の仕方を変えようとしていくときに、社内で起こる反対の声の代表例だ。
しかし、多くの反対意見は、市場を見ていない。
前者は、ハレの日を祝う食事というくくりの中、最下限の価格でブランドを維持しながら展開している。
後者は、内部の経費を、とことん詰めて、仕入れ先と運命共同体となって、いいものを最低限の出費で抑えていきたい人や、ブランドイメージに惑わされることなく本当に良いものを購入したいという欲求に、プロの目利きで応えている。
自社都合ではなく、お客さま都合。
この原則は、昔も今もこれからも変わらない。
金利が 1%もないいまだから、事業展開で、営業利益で 1%残るなら、損しないなら、まずやってみるくらいの大胆さもあっていいだろう。
安売りをすることと、お客さまに歩み寄ることを、混在して考えて、その違いが分からない人も少なくない。
原価に想定粗利を入れて売価を決定するやり方が一般的だが、ここにお客さまはいるのだろうか。
市場の地価変動を考慮して、ムリなく買える価格から、商品ラインアップを見直す。
自分たちのやり方を工夫して、お客さまに近寄っているのが、高級フレンチと地場の名門の家具店の 2 社である。
ハレの日をここちよく過ごすための存在。
本当にいい家具に出会える場所。
これらの在り方は、繰り返しになるが変えてはいない。
やり方を変えたのだ。
お客さまに歩み寄る両社へ、お客さまは集まっていく。
支持が集中していく。
今の市場は、価値と価格の関係の地盤変動が起こっているととらえた方がいいだろう。
自分たちのやり方、すなわち価値と価格の関係を変えて、歩み寄っていく方法を考えて欲しい。
大胆に、かつ、プライドを持って。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 192」2020.9.25】