今・ここを未来につなぐ現場報告 A旅館・現場レポート 3/3
2021.06.01岡村 衡一郎
「たかが弁当、されど弁当」
A旅館は、島を出て、自分たちの肉声で、宿泊以外の商品を販売することを通じて、大きなものを得たようです。
前前回では葛藤について、前回では葛藤をどう乗り越えていったのかに触れました。
今回では、実践後の成果と実感をご紹介します。
支配人からメールは、次のような文面で締めくくられます。
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昨日、初めて販売に至りました。
明け方から作った弁当を乗せた車が10時に出発し、現地に着いたのが11時。
11時30分からの販売でした。
既に数人が待ってくださっておりました。
そして、準備をして販売開始をしたところ、当日用に持って行ったお弁当が、何とわずか数分で売り切れてしまいました。
おまんじゅうも完売です。
「密」に気遣いながら、あまり話さないつもりでいたのですが、買ってくださった方々から、「島はどう、観光客は戻って来ている」「もうちょっとしたら、また行くけぇねぇ」と声を掛けて下さいました。
私は今回のテイクアウトで一番感じたことが「お金をいただくことのありがたさ」でした。
今まで、当たり前のように来て頂いていた場所ですので、お金をいただくことへのありがたさが薄れておりました。
スタッフも このありがたさを感じてくれたと思うのです。
心配してくださるお声を聞けば、スタッフのモチベーションは、上がったことに間違いありません。
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A旅館の島を出て、自分たちの肉声で宿泊以外の商品を販売する初めてのトライは、準備した商品の30分完売という結果 になりました。
そして、お客さまからいただく対価に対するありがたさを、深いレベルでスタッフ同士が実感できる機会にもなったようです。
メール文中にある、「島はどう、観光客は戻って来ている」 「もうちょっとしたら、また行くけぇねぇ」
これらのお客さまからの言葉は、換えがたい財産になるでしょう。
近い人に喜んでもらう。
この商売の原則は、特に観光業の方々にとって薄れていってしまったものなのかもしれません。
A旅館のトライは、街中に自分たちの売場を持って、お客さまの方に近づいていく原則に沿った実践になります。
売場の本来的な意味は、自分たちの価値を具現化する場、当然複数あっていいのです。
待ちの姿勢から攻めの商売へ。
近隣のツーリズムを活性化する。
これら大きなテーマの実践は、身近なところにあるのでしょう。
自分たちができることは、探せば足元に見つかる。
新しい実践には新しいルールを適用する必要がある。
そして、その実践から分かったことで次の実践テーマが見えてくる。
A旅館のトライは、足元商品にいるはずだったお客さまの顔を、想像ではなく、リアルに見えるようにした取り組みであり、自社の技能の一つであった「おいしい料理が作れる」の横展開であり、自分たちの存在意義として目指している「島の活性化を担う」を形にしたものである。
自分たちの商品を、自分たちの肉声で、ネットを通じてではなく、販売していく。
このわずかな時間が、商売の原点を強化し、強い商売人を作っていく。
A旅館の実践からの私の学びでである。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 182」2020.7.3】