今・ここを未来につなぐ現場報告 A旅館・現場レポート 2/3
2021.05.24岡村 衡一郎
前回では、A旅館が新しい展開をはじめるにあたっての葛藤について触れました。
今できることのアイデアが話し合いを通じてある程度出てきました。
しかしアイデアを実行に移していくには…。
支配人は、次のような投げかけをして、メンバーの意見と行動の間に流れる見えない川に、実践の橋をかけていきます。
弁当を販売するという行為が、島の活性化への入り口にもつながっ ていくのです。
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「今回は赤字でもかまわない」
売り上げのハードルを取り除くと、メンバーは、さらにたくさんのアイデアを出してくれました。
例えば
□市内の人々に島をアピールするためにやろう。
→島を盛り上げるのは私たちの仕事だから。
□一緒に働く仲間のモチベーションアップ。
→スタッフが、一緒にお弁当を作り、梱包作業をする。
□この地域、商店街の方と力を合わせよう。
→地域の名産品も一緒に持っていこう。
□クーポン券を、たくさん、たくさん配れない。
□これからのチャレンジの機会にもなる「テイクアウト」は これからも継続できる。
□島の味は、絶対に外せないよね。
いろいろな意見でミーティングは、盛り上がりました。
近所のまんじゅう屋さんに相談したところ、ぜひ一緒にと、まんじゅうも合わせて販売することになったのです。
SNSで事前告知したところ、数十個の予約をいただけ、そして、当日販売用にと、早朝から予定より多くの個数を、調理スタッフが作ってくれました。
この頑張ろうとする、皆の姿を見て、安心感を得ると同時に、私たちにできることは、まだまだあるという気持ちになりました。
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支配人の投げかけ「今回は赤字でもかまわない」が、アイデアを行動に移していくための大きな後押しになっているのが分かります。
誰も初めてやることは未知数なのです。
新しいことへの取り組みに、既存の管理手法を持ち込もうとするマネジャーは少なくありません。
アイデアを封じ込めるのは簡単です。
「それ、もうかるのか」の一言です。
多くの場合、もうかるかどうかを調べてからという段取りになるのですが。
調べているうちに、熱のようなものが冷めていってしまう場合が少なくありません。
経営にマイナスのインパクトを与えてしまう場合は別ですが「まず、やってみる」の選択が、変化に強い会社になっていく、というのは、業種業界を超えた原則。
今回の取り組みでは、調理コスト、運搬コスト、販売にかかる経費ということになります。
市内の路面販売の売り上げを調べれば、おおよその数値の読みはできますが、そんなことよりも、まず実践を、支配人は選択したのです。
ここまで読んでいただいた方の中には「たかが弁当」と思われる方もいるかもしれません。
しかし「たかが弁当されど弁当」 なのです。
A旅館は、島を出て、自分たちの肉声で、宿泊以外の商品を販売することを通じて、大きなものを得たようです。
次回では、第1回目として島を出て行なった販売活動の成果を紹介します。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 181」2020.6.26】