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COLUMN

いい会社づくり通信

旅館・菊乃家は、なぜ挑戦文化が育まれるのか

2021.01.12岡村 衡一郎

 複数回にわたって、広島県宮島の旅館・菊乃家のイノベーション的取り組みを紹介してきた。
本号は、これらのまとめとして、なぜ待ちの商売であった旅館が攻めの旅館に変われたのかについて考えていきたい。
焦点は旅館・菊乃家が変化をし続けられる挑戦文化をなぜ育めるようになったかだ。

 昔の話になるが、菊乃家でも多くの旅館にあるような部門の壁は存在していた。
突破口になったのは陣屋というシステムによる情報共有であった。
お客さま情報を共有できるシステムによって、聞いている、聞いていないなどから生じるもめごとはなくなっていった。

 相手が自分と同じ情報を持てていれば行動は同期化してくる。
これは変化の十分条件として効いてきた。
料飲とフロント、フロントとリネンなど、部門を超えたお客さま情報の共有が、今日するべきサービスの同期を後押ししていったのだ。
しかし、これだけでは、同期はしても、変化を起こせるチームにはならない。

 旅館・菊乃家が、次に身に付けたのは、立場や肩書に関係なく知恵を出し合う仕事の進め方である。
朝食は作れなくても、朝食の改良点を出し合うことは当たり前にできるようになったし、夏のイベントや秋のイベントを考えるのも、皆総出で考える。
そして出されたアイデアを、みんなの力で肉付けして、形にして、実践していくのである。

 情報共有ができ、立場肩書にある仕事は最低限度の仕事であるという認識を持ったチームは、さらに高みを目指したのだ。
自分たちの旅館の活性化だけでなく、宮島を盛り上げられる存在になることを目標に掲げ、宮島にある財産を掘り起こしていったのである。
そして、成果のモノサシに商店街を歩く人の数を加えて、外の活性化を内から行なう取り組みを増やしていった。

 もう一度整理しておくと、自分たちの存在意義を見直し、フラットに知恵を出し、情報共有しながら事を動かしていくチームになれたということであり、なろうと働きかけ続けた複数のリーダーがいたということであり、そこに賛同して動こうとするメンバーが出現したということである。

 宮島の活性化につながりそうなことは、成功するかしないかの前に、まず、やってみる。
現在菊乃家が最も大切にする判断基準である。
誰も正解が分からないことへの挑戦が、リーダーの顔色を気にしない、伸び伸びと冒険するチームの原動力になっ ている。

 最後に旅館・菊乃家の菊川社長のことに触れなければならない。
本人はあまり気づいていないかもしれないが、菊川さんには拾材能力がある。
その人がもともと持っている財産を拾って、フルに発揮できるようにする道筋が見える人だ。
情報共有からはじまった改革は、サービス業に就こうとする人の、もともと持っている相手のために何かをしたいという欲求を上手に引き出し、宮島の活性化につながる一人一人の逸品づくりに昇華させている。

 大手ホテル出身の支配人の誰かを喜ばせたいという能力を上手に引き出し、支配人がメンバーの能力を引き出し、メンバーがほかのメンバーの能力を引き出す。
サービス革新の好循環に菊川社長の拾材能力と宮島を本気で活性化するという大きな目標が効いている。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 163」2020.2.7】