イノベーション体質の醸成に力を入れる旅館・菊乃家
2020.12.08岡村 衡一郎
旅館・菊乃家は、全員でサービスを見直す習慣がある。
月に1回は、業務を止めて全員で改良点をオフサイトミーティング形式で話し合い、新しいやり方を少しずつ具現化していくのだ。
今では当たり前のように、意見を出し合うようになったが、皆で改善点を話し合うことに最初から慣れていた訳ではない。
料飲、宿泊、企画、リネン、セクションごとの壁もなかった訳ではないし、他部門のやることに口出しをするのは、最初は大変だった。
支配人が起点となって、全員を少しずつ巻き込んでいったから、今のような全員で改善ができるようになってきたのだ。
オフサイトミーティングの立ち上げ当時の風景がある。
三人が舞台に立って、オフサイトミーティングは何なのかを、芝居形式で共有を図っている場面である。
三人はプラカードをかけて、社長、部長、担当者という役を演じている。
オフサイトミーティングを共有するための劇では、部長が社長に忖度しているシーンをやってみたり、社長の一言で決まっている風景を大げさに演じて、NG集として紹介したり、担当者の意見に、部長や社長がアイデアを肉付けしていって、一つにまとめあげていくシーンなど、これから起こしていきたい好ましい姿を、身振り手振りを交え紹介していった。
パワーポイントのレジュメや言葉だけではなく、劇という形式をとってまで、フラットにアイデアを出し合っていく大切さを伝えていったのには理由がある。
海外から働きに来ている人にも意図を深いレベルで伝えたかったし、20代から70代まで幅広い年齢の方々がいる中で、背景を伝えていきたいと、その三人が思っていたからだ。
どんな立場も年齢も経験も関係なくフラットに知恵が出せる。
これは、変化体質を構築していく上で最も重要なことだ。
だが、口で言うのは簡単だが、実際に実行するのは難しい。
旅館・菊乃家は、この難しいことを、寸劇や紙芝居で乗り切ってきたのだ。
紙芝居は、朝食をどう変えていったらいいのかを話し合うために、課長の春田さんが作成したものだ。
春田さんは料理人ではないが、自分のイメージをたたき台として伝えるために、紙芝居をつくってみんなに働きかけている。
料理ができる、できないは、一切関係なくみんなで知恵を出すために仕掛けているのだ。
そのような努力が実を結び、現在の旅館・菊乃家はイノベー ション体質を身に付けた。
どんな立場も年齢も経験も関係なくフラットに知恵が出せる環境を背景にサービスを日々新しくしている。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 160」2019.12.27】