旅館・菊乃家は、伝えることよりも伝わったことを大切にする
2020.12.01岡村 衡一郎
本号から数回に渡って旅館菊乃屋の事例を再度取り上げていく。
彼らは大手旅行代理店と宿泊サイトの双方から広島県ナンバーワン旅館と評された。
しかし、菊乃家スタッフは、「なんで自分たちがナンバーワンになったのが不思議だ」という。
2冠のナンバーワンの持ち主たちは「当たり前のことをやっているだけな のに…」という認識にいるようだ。
菊乃家にはマニュアルはない。
あるのはクレドで定めた数項目だけだ。
大切にしていくべく項目は皆で話し合って決めたものだ。
自分たちで定めたものだからこそ、愛着をもったものになっているだけではく、顧客サービスや仲間との取り組みの起点をなす判断基準として能動的に機能している。
クレドやサービスコートやマニュアルは、どの旅館やホテルでも整備しているものだと思う。
数枚から数十枚の紙が、能動的に機能するか、受動的なものに終わってしまうのか。
内容は似通っ ていても、大きな違いが出てくるのが、クレドでありマニュアルだ。
中にはべからず集としての機能に留まっているところすらある。
菊乃家のクレドに「私たちは伝えることよりも伝わったことを大切にします」という一文がある。
私は「伝えることよりも伝わったことを大切にする」という一文に、菊乃家2冠の真のすごさを感じる。
お客さまの思いをくみ取ることや、仲間を大切にするなどの文章がならぶが、この「伝わったことを大切にする」が、すべての項目から繰り出されたアクションの成果を、相手側から確認していくように促していくからだ。
伝わったことを大切にしているスタッフのおもてなしは自然体である。
決して無理をして大げさな笑顔は作らないし、必要以上に言葉づかいをていねいに深いお辞儀などはしない。
自分の意図が伝わり、お客さまや仲間から意図を感じやすい自分にとっての自然な構えで相手に関わっていくからだ。
「なんで自分たちがナンバーワンになったのが不思議だ」という菊乃家スタッフの言葉の背景には、自然な笑顔。
自然なおもてなし。
自然ないたわりがある。
これらの構えは、お客さまに安心をもたらすし、来たことを本当に喜んでいる姿が伝わる。
当然、 ただのマニュアルでは引き出せない、サービスの原点をお客さまは感じるのだろう。
ようこそ宮島のわが家へ。
菊乃家のサービスは、わが家に迎えられるような温かさがある。
2冠に輝く菊乃家の当たり前は、お客さまが本当に求めるものに近いサービスになっているのだ。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 159」2019.12.20】