客層を選びますか、それとも、全客層をターゲットにしますか
2020.08.04岡村 衡一郎
お客さまは誰か。
事業を考える上で重要な問いの一つである。
30代女性、お医者さん、大手ゼネコン、50代ビジネスマンなどなど、自社の事業が提供する価値を必要とするメインの客層は、どの企業にも必ず存在するだろう。
しかし、この先、お客さまをセグメントするという常識は通用していくのだろうか。
イタリアのカフェにあるような、同じ商品でも、立って飲むのか、座ってフルサービスで過ごすのかで値段は3倍違うというような商売はなじみにくいかもしれない。
日本から見れば多少の違和感がある1店で2業種(立ち飲みカフェとエレガンスなカフェ)のような商売形態は、理にかなっていると、私は考えている。
その日その人その瞬間のコーヒーに対するニーズは違うからだ。
さっと飲んで出たいとき、ゆっくりと友人と語らう場としてカフェを利用するなど、同じ人から出る、カフェに対する多くのニーズを満たせるからだ。
あらゆる客層からの支持を得るための取り組みは、都心にいるとピンときにくいが、地域で商売をしている≒遠くから人が呼べない、足元の商圏人口が限られる中での事業にヒントがある。
地域の一番企業は、全客層からの支持を得ようと取り組んでいる。
商品・サービスを相手に応じた形に変えて展開しているから老若男女問わず支持を得ているのだ。
例えば、静岡県のローカルチェーンのハンバーグレストランさわやかが、全需要対応のモデルと言える。
下限は600円代から上限は2000円弱のハンバーグがある。
下限から上限までプライス幅は3倍以上、手ごろな価格で食べたい人から、本格的な味を求める人まで、多くを取り込んでいる。
実際お店に行けば分かるのだが、中学生から家族連れ、グルメ嗜好と思われる人まで、客層の幅が広い。
一言で、その客層をくくるとしたらハンバーグを食べたい人となるだろう。
少子高齢化と人口減。
自分たちのビジネスの前提となる人口構造が変わっていく中で、自分たちが得意する今の客層だけでなく、あらゆる人に対して、自分たちの技能を割って展開する必要があるだろう。
人口減、少子高齢化の対策のモデルになるだろう地域一番企業は、30代女性とか、比較的お金もちとか、50代男性向けにセグメントをしても、それ自体にこだわってはいない。
自分と違う消費行動をする人のことを理解しようとしてきたから幅が広いのだ。
客層が狭い企業は、自分と近しい消費行動をする人の理解にとどまっている場合が少なくない。
多少厳しい言い方をすれば、自分の好みの中だけで商売をしているのだ。
少子高齢化と人口減の背景で必要なのは、違う消費行動をする人の受容であろう。
あらゆる客層からの支持を得るように、自分たちの技能を相手に合わせた商品・サービスに変えていくのが得策だ。
自社がアッパーによっていれば下限の方向に、下限の方に強ければ上昇の方向に価値と価格の関係を研究してみよう。
女性に強ければ男性を、男性に強ければ女性に向けて好みの違いを考えていこう。
いったん、自分の好みはカッコに入れて、まだ見ぬお客さまの理解を試みよう。
これらはブランド棄損になることはない。
ただの安売りとは違うアクションだからだ。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 142」2019.8.9.16】