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COLUMN

いい会社づくり通信

菊乃屋は、なぜ変わり続けられるのか

2020.07.07岡村 衡一郎

 本掲載で数回紹介させていただいた旅館・菊乃屋は変化し続ける。
1カ月もたてば、サービスの改良はもちろん、新しいサー ビスが加わる。
彼らの取り組みは、下図の菊乃屋で示したⅣのゾーンに位置付けられるので変化が止まないのだ。

 物事の見方である縦軸では、問題ではなく、機会をとらえる、活動を進める際の意識は、現実意識ではなく可能意識にたって、どうやったらできるのかを考えている。
逆に多くの企業では、この逆のモードであるⅠだけに終始していると言っていいだろう。
誰にでも分かりやすい問題を、組織での役割をベースに進めている のだ。

 菊乃屋では、Ⅰのモードの問題解決だけに終わらせずⅣのモードとのハイブリッドな取り組みを行なっている。
稼働率や客単価などのアップ施策は、目標と照らし合わせての確認と対策立案は週次で行なっている。
それに加えて、週に1回、全員で、宮島を持ち上げるために、自分たちの宿のお客さま以外に対しても何ができるのかを話し合い形にしていくのだ。

 今でこそ、立場や役割に関係なく、全員がアイデアや気づきを持ち寄る、チームでイノベーションに取り組めるようになったが、最初はそうではなかった。
料飲とサービスの壁や、経営の思いが現場に伝わらないことも少なくはなかった。
最初は問題だと感じていることを互いに言い合う硬直した話し合いの時間も長かった。

 彼らの変化のプロセスは、ⅠのモードからⅡのモードへ。
自分たちが得意とするお客さまに向けて何ができるのかの模索から始まった。
親子三世代、旅行代理店や集客ネットを通さず、ダイレクトに予約を入れてくれる、お客さまの満足を感動に変えようと支配人が旗を振り、社長が現場からの提案をどんどん形にしていった。

 話し合いから生まれたアイデアの断片を、二人が先頭に立って形にしていく過程は、社員にとって、アイデアから旅館を変えられるという経験になった。
接客担当が料飲に。
料飲が接客に、アイデアを出して生まれた、親子三代の旅行客向けの朝食メニューや、部屋の備品の変更などの具体策が、部門に関係なく取り組むということを日常にした。

 そして、親子三世代からの評判を自信に変えて「菊乃屋のある宮島へ」を合言葉にイノベーション活動を続けている。
そこから生まれた新サービスが、宮島に訪れた方々向けの抹茶教室や書道教室、けん玉大会、ナイトツアー、たこ焼きづくり体験など である。

 旅館・菊乃屋は、問題ではなく機会の断片をとらえ意味を見つける。
そして、どうしたら形にできるかをみんなが考える。
問題という誰でも分かることを役割ベース で解決していくのではない、機会と意思の掛け算で、 変化を味方にしているのだ。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 138」2019.7.5】