サービスのアイデアがあふれ出る旅館菊乃屋
2020.06.30岡村 衡一郎
中国新聞に取り上げられた旅館菊乃屋の取り組みを紹介した 記事(2019/4/24 中国新聞朝刊)がある。
以前サービスイノベーションでも取り上げた菊乃屋の取り組みは、宮島をさらに盛り立てたいという思いも持って発展的に続けられている。
記事には、女将が先生となって、宮島に来られた観光客に折り紙を教えている風景が写真になっている。
折り紙教室以外にも、抹茶教室、けん玉大会、ナイトツアー、 たこ焼き教室など、地域の人たちができることを、イベントに変える企画をトライアンドエラーで展開している。
中でも習字教室の開催にいたったエピソードに私は感動した。
習字教室の先生はリネン担当のベテランの女性が、教室の司会進行は台湾出身の二人の若手社員がタッグを組んだから、商品造成にいたった企画だという。
菊乃屋は、定期的にオフサイトミーティング(立場肩書を離れた話し合いの場)を定期的に行なっている。
一年間行なってきたから、話し合いに深さがある。
今のテーマは、宮島に対して私たちにできることは何かである。
オフサイトミーティングがきっかけで、リネン担当のベテラン女性が習字の腕が師範クラスだということを初めて知ることができた。
そこに通訳の役割をかって出てくれたのが台湾出身の若手社員。
この話がまとまるのは数分だったという。
「習字教室を、ぜひやりましょう。私が支えますから」。
裏方の仕事を好むベテラン社員さんの前に出ようとする気持ちを、最前線に立つフロントが支えたのだ。
以前の菊乃屋では、このような光景は見られなかった。
厨房とプロントの葛藤もあったし、サービス向上を唱える支配人のかけ声に反応して動いていこうとする人も少なかった。
今の菊乃屋は、全員でお客さまをもてなす、全員で宮島を盛り立てるという思いが共有されているから、日々、新しいサービスが生まれ出している。
「すぐにやってみる」。
サービス革新で最も大切な行動基準を根づかせたのは、社長の菊川さんと支配人の松本さんが、タッグを組んで、一人一人の思いを話し合う場を粘り強く続け、そこで出た意見が形になるように後押ししてきた成果だ。
お客さまの名前を全員が呼べるように、朝食メニューをこうしたい。
おにぎりを渡したらどうだろう。
スタッフから出る意見を大切にしながら、サービスを少しずつ変えて、意見を温めて形にしていった取り組みが、今、沸点を超えた。
ヤカンから勢いよく吹き出る水蒸気のようにあらゆるスタッフから、サービスのアイデアがあふれ出る旅館になったのである。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 137」2019.6.28】