部下を伸ばす保坂部長のアプローチ
2020.06.23岡村 衡一郎
保坂の部下たちは、社内で一番伸びると評判だ。
10の部門がある中で、彼が率いる部門のメンバーは、年齢や社歴に関係なく、確実に去年とは違う仕事にトライしていくのだ。
ベテラン社員の野村さんは、保坂さんが新しい上司になる前は、正直マンネリに陥っていた、という。
会社の方針にも納得できないまま、悶々とした日々を送っていたようだ。
野村さんは、かつての主力商品、今はサブになってしまった商品を仕立てる職人でもあり、自分の腕を生かして表舞台に出られない状況を変えられなくてもやもや感を募らせていた。
社歴の長い野村さんに、正面切ってかかわってくれる人もいない。
かつてのスター社員の仕事に対するエネルギーが下がっている状況に誰も効果的なサポートができない状況が続いていた。
誰も、どう手助けしていいのか分からなかったからだ。
上司の保坂さんは、かつてのスター社員の再活躍のイメージを彼以上に考え抜いた。
もう一回輝けるように野村さんの特性を観察して理解するように努めた。
野村さんは内向的だが表舞台で活躍したい人、というのが、 保坂さんが見抜いた彼の特性だ。
この特性を生かした上で、職人としての技能が生きるスペースを、仕事上でかかわる人をずらして一緒に見つけてあげたのだ。
具体的には、ダイレクトに営業と組んで、お客さま仕様に、現在の主力商品のラインアップを仕立てていく仕事だ。
かつてのスター社員の新境地を開くことができたのは、その人の特性をフルに生かそうとする保坂さんのアプローチにある。
彼は相手の特性を次の二つの基準で理解しているという。
その人は、内向的な性格か、それとも外交的な性格か。
仕事は表舞台での活躍を好むのか、裏方的なバックアップを好むのか。
次の仕事のイメージをもってもらうには、内向的な人には、深く自分を振り返られるような問いをたて、出した答えに対して、もう一度を問い立てて、自分の答えに自己納得できるようにかかわる。外交的な人には、仕事の後工程や前工程にいる人との話し合いの中で、イメージを持ってもらうよう促す。
そして、仕事の喜びは、表舞台の役者なのか、裏方のプロデューサーを好むのかで、組む人と、任せる仕事の内容と成果を伝えていく。
ベテラン社員の野村さんは内向的だが表舞台で活躍したい人だったので、これをしたらどうかを、すぐには提案しない。自問自答の答えを大切にするとして、自分が何を生かしたいのかを問 い続けた。
野村さんの出した加工技術が生きるように、表舞台で活躍できるように、今までかかわりの少なかった営業マンと組んで、客先の要望に応えていくという、表舞台で成果を実感できる仕事をつくっていった。
保坂部長の人を尊重するアプローチのすごさは、本人の特性を相手以上に考えるところにある。
逆に部下を今一つ伸ばし切れない上司の共通項は、特性を考える前に自分の価値観を押し付けてしまうところにある。
今一つ力を発揮できない状況にあると感じる人へのアプローチは、内向的と外交的、表舞台と裏方という切り口を参考に考えると何か違いをつくれないだろうか。
特性は本人より上司の方が分かることが多いから。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 136」2019.6.21】