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COLUMN

いい会社づくり通信

イノベーションを生む男の仕事術

2019.10.29岡村 衡一郎

 私は、ある技術のつまったパーツの機能で世界一の値をいくつも持つエンジニアと仕事をさせていただいている。
世界一のス ペックをつくりだせるだけあって、目標設定の仕方が一般的なやり方とは異なる。
この仕事術はエンジニアだけではなく、サービ ス業でも、卸売業にでも展開できる普遍性を持っていると私は感じる。
これから、前工程、本工程、後工程の三つのポイントを紹介していくので、取り入れられるところを考えていただきたい。

まずは入り口、前工程に妥協がない。
何を目指して目標を設 定するのか。
当然世界一である。
ところが、彼は世界一を概念の中だけで処理しない。
全世界の技術を調べるところから具体的に超えるべき数値をはじき出す。
このときにできるかできないかは考えない、設定してから、超えるための対策づくり、本工程に入っていくのだ。

本工程の対策の練り込みは、決して一人の頭では考えなしに 悩まない。
先達の知恵や、異業種の知恵をすべて棚卸するところからはじめるのである。
創業から今までの図面すべてに目を通して、当時の技術力では完成に至らなかったアイデアや、過去のレコードを塗り替えたパーツの背後にある設計思想に思いをはせる。
そして、同系列の動きを異業種のパーツをすべてベンチマークして、エッセンスを転用できないかを考え抜く。

ノーベル文学賞を研究した人によると、受賞作品の文体の9 割は過去の文豪の影響を受けている、オリジナルな文体は全体の1割だと結論づけていた。
彼のパーツづくりもそれに似ている。
先達、異業種、そして自分の考え。
彼の頭の中では、先達のエンジニアや異業種のエンジニアと対話をしながら、世界一の値をだすための対策が練られていくのだ。
こうして、先達の知恵と自分の知恵が掛け算になってラフスケッチができあがる。

後工程の完成にまで至るプロセスも具体的だ。
ラフスケッチを見せながら周りの人をどんどん巻き込んでいくのだ。
この部分に 意見をくれないか。
ここ迷っているのだけれど知恵はないか。
聞かれている人たちも何に向かって意見を言えばいいのかが具体的であるから、意見が言いやすい。
彼の意図とおおまかな方法が伝わるから、協力がしやすいし、その場でアイデアが出なくとも、 数日後に思いついたことを伝えにきてくれる。

彼が世界一を取る仕事術の根本に知恵の掛け算を生み出すプロセスがある、彼が責任を持って生み出そうとしている対象に、多くの人の最良の知恵を、時間を超え、空間を超えてかき集め
ていくのだ。
そして特徴的なのは、前工程の目標設定を本工程のラフスケッチに、一般的な仕事の進め方と比較したとすれば 10倍、いやもっと多いかもしれない手間暇をかけることだ。

多くの人が考えること。
アイデアを生み出すことを誤解しているように私は感じる。
すぐれたアイデア、オリジナルの考えの9割はほかの人の考えの自分事化にある。
最終1割の詰めの部分に自分の考えがある。ヒラメキは偶然の産物ではなさそうだ。

彼は前工程の妥協なき調査で超えるべきバーを定める、徹底的他者研究で本工程の大まかな道をあぶだす。
後工程の完成 までのプロセスに周りの人の知恵を総動員させる。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 107」2018.10.19】