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COLUMN

いい会社づくり通信

お客さま以上にお客さまになりきる

2019.10.08岡村 衡一郎

 「自分たちならでは」を発揮する。
市場ナンバーワンの支持を得る。
双方が実現している状態、オンリーナンバーワンが、企業経営の究極の姿だと私は考えている。
オンリーワンは悪くない。
しかし他社との比較がなければ自己満足に陥る可能性がある。
ナンバーワンが絶対目標になってしまっては、すべては売り上げのために、と資本の論理に乗って足元を見失うことになりかねない。

 私の関係先では、その道のプロとしてお客さまから愛される店が多くある。
スポンジを焼く技術にすべてをかけるケーキ店は、スポンジの良さが伝わるロールケーキを一品にして、衰退激しい商店街にありながら、一日1000人のお客さまを引き寄せている。
通学専用自転車という新しいカテゴリーの一品を独自開発した自転車店がある。
そのお店のオリジナル自転車は、丈夫さ、使いやすさ、メンテナンスの三拍子で、学生の4人に1人が、オリジナル自転車に乗っている。
ダイニングテーブルの買い替えに焦点をあてた自信の品ぞろえで大手家具チェーンとの戦いを制している。

 この人たちにとって、商品は、セグメント戦略や選択と集中といったようなものではない。
おいしいケーキはスポンジで決まるという哲学。
中高生の毎日の自転車通学を安全で快適なものにしたいという思い。
家具職人と家族のだんらんをつなぐのが私の役割。
これらの源泉が、一品という目に見える商品になり、その商品がもたらす使用価値を伝え直して支持を得ている。
商品は自分の分身なのだ。

 自社のオンリーワンが形となり業績が上がってくると、ナンバーワンを目指す人と、オンリーワンで終えてしまう人に分かれていく。
前者は、自社の商品であまねく人を幸せにするための視座に立ち、さらなる改良を進めていく。
後者は、すべての人をお客様にする必要はない。
ベンツなどの展開をイメージして特定顧客に支持されるのがブランドだと、考えている場合が多い。

 優れた一品を持つ人は、「売る」と「生きる」を決して分けていない。
お客さま以上にお客さまになりきって「売る」と「生きる」を好循環させている。
商品を売る人の愛情が、商品に注がれ、価値が深まり、お客さまの支持を得る、お客さまの支持はお金に変わり、得たお金は、その人の命の充足に使われる。
そして、命の充足によりさらに愛が深まり、深まった愛情が商品の価値をさらに深めて、一品サイクルを回し続けている。

 一品サイクルを回す人にとっての商品は、ただの売り上げ確保の手段ではない。
商品は自分自身の生き様を表現するための媒介だ。
この逆にあるのが、お金を獲得するための道具になりさがった商品だ。
企業の不祥事(データ改ざんなど)は、一品磨きの循環が、商品、お金という、資本の論理と、命、愛情という道徳の論理が分かれてしまうときに起こるのだ。

 オンリーワン企業の商品は、見た目が似ていたとしても去年と同じものを提供していない。
毎年、毎日、新しさを加え続けている。
新しさを加え続ける取り組みが「ぶどう」を「ワイン」にするような地続きにも思えるが別のものに飛躍するイノベーションにつなげている。

 その道のプロとしてのワクワク感を届ける最短ルートは、売れている商品の、お客さまになりきった改良にある。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 104」2018.9.28】