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COLUMN

いい会社づくり通信

トップの自己・目標管理

2019.05.27岡村 衡一郎

 山本社長がA社の経営を引き継ぎ10年になる。
就任時に「約束」というタイトルの小冊子を発行し社員全員に配布した。
A4・10 ページわたり経営者として自分が取り組む目標が書かれている。
お客さまだけでなく社員にも喜んでもらえる会社にするというビジョンからはじまり、商品のこと、仕事のこと、待遇面、30 項目にわたって目標が書かれている。

 現在 A 社は約束に掲げたとおりに、日本でトップシェアを誇る専門店になった。
山本社長は、月に 1 回 30 項目の目標と現在地を確認しては、できたこと、できていないことを振り返り、今なすべきことを見直してきた。
目標を先に掲げて近づける、「約束」は社長にとってもぶれない軸であり、経営という航海の羅針盤の役割を果たした。

 そもそもドラッカーが提唱した目標管理は、山本社長が行なってきたような、自己・目標管理、Management by Objectives and Self control である。
しかしand Self control の部分が抜け落ちた、目標で追い立てる管理手法として活用してしまっている企業は少なくない。
本来、目標は目的地に向かって、車を運転する際のスピードメーターやガソリン計などに、自分が適切な運転をする際の道具であるべきなのだ。

 A 社の管理職にとっての目標は、目指す方向であり、重点的に力を入れる施策を明らかにするために機能している。
期初に立てた目標とのギャップを責めるための道具ではなく、目標に近づくための攻める内容を明らかにするための道具として活用されている。
目標の達成率をABCランク評価指標に査定するために目標管理を使えば、立てられる目標は確実に読める内容になってしまう。

 B 社の人事部の方は毎年 3000 人の目標をチェックしている。
その中で「9 割の人は、管理シートの目標欄に予定を書いているように感じる。
それは目標の質よりも、届かなかったという数値化された事実の方がクローズアップされるのが原因にあるように思うが、制度はなかなか変えられない。
しかし、これでは工場長の掲げる世界一の工場にはなりにくい」と言う。

 世界一の工場になるというスローガンを掲げる工場長と、仕事は挑戦的に、という考えを持つ 1 割の社員にとって、目標は方向と力点を示している。
しかし残りの 9 割の人にとっては、確実に読める予定の列挙にとどまってしまっているのが、B社の目標管理である。
飛躍が起こりにくい制度として運用されてしまっているのだ。

 A社の自己・目標管理は、飛躍を生む。
トップ自らが手本となって、目標は近づける対象であることを示し自分の行動を振り返り修正していくためのガイドとしているからである。
「約束」の最後のページには、私が引退するまでは皆さんが、もっと、もっと、誇りの持てる会社にします、で締めくくられる。
終わりなき挑戦をする意思を表している。

 山本社長が率いる会社のリーダーたちにとって、目標とは、迷ったときに原点に立ち返るものであり、リードする先を確認するためのガイドであり、自分を鼓舞するために自分が自分に発するメッ
セージだ。
A社の年度方針や中期経営計画に、予定を書くスペースはない。
力を合わせて突破しようとする力点と、ゴールイメージがあるだけである。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 07」2018.5.4・11】