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COLUMN

いい会社づくり通信

実らなかったコンセプト

2019.04.08岡村 衡一郎

「子供がヒーローになれる場所」、ある遊園地が活性化の切り札に掲げたコンセプトです。
遊園地スタッフが悪役になり子供をヒーローにする人的アトラクションは、子供の笑顔だけでなく現場の活性化をもたらしました。
しかしヒーローコンセプトは、つぼみのまま、大きな花を咲かせることなく終わってしまった。
残念なことに、大量集客につながらないことから取り組みの優先順位が後退してしまったからです。

「アトラクションにひと工夫」は、この遊園地のお家芸で、長年取り組んできた歴史があります。
例えば、宇宙基地で宝探し、コンサートホールで社員総会、ビオスの丘から飛ばそう紙飛行機コンテスト、他社よりもハードへの投資が後手になりがちな状況を現場の知恵で乗り越えてきたのです。

 子供がヒーロー気分を盛り上げるための味付けは、ひと工夫が得意なエンターテインメント集団には朝飯前。
遊具搭乗前のマイクパフォーマンスでヒーロー気分を盛り上げよう、暗闇のミラーハウスで冒険してもらおう、モザイクの坂道を利用してストライダー勝負をやってみようなど、活性化の切り口さえ見えれば、みんなからアイディアはどんどん湧いてきます。

 しかし杉本社長の交代を機に現場活動は影をひそめてしまいました。
年間数万人の集客が望めないものに力を入れられないと新社長の命により、「子供をヒーローにする自主的な取り組み」から「集客の見込める他社企画のイベント」に変わっていきました。

 杉本社長はアトラクションにひと工夫の技能がウリとして、ヒーロー化でオンリーナンバーワンを目指しました。
一方、新社長の鳥井さんは広大なスペースと看板をウリに、イベントによる集客を図りました。
杉本社長、鳥井社長をへて山中社長にバトンが渡った遊園地の活性化策は、あいまいなまま現在に至っているそうです。
もしヒーロー化計画を続けていたら、自分たちのウリを活用して、自分たちが選ばれる価値が創出できたのでは…、私は悔やまれてなりません。

 私はコンサルティングの現場で絶えず「あるもの」と「成り立ち」をなるべく深く観察するように努めています。
「あるもの」の観察は商品・サービスから入ります。
創業から今までの単品別の販売データをならべて過去販売レコードを達成したものや、今売れている商品・サービスの把握から入ります。

 そして販売データの意味を考えます。
「成り立ち」は、誰のどんな取り組みの上で実績があがったか、商品・サービスが生まれた背景を相手先企業の方々がタイムスリップして映像で見たような感覚になるまで、遡るようにしています。

 というのは、ブドウがワインになるような変化を起こすことがイノベーションを成功に導くと考えているからです。
未来の構想を急ぐ前に、自分たちにとってのブドウは何なのかをじっくり掘り下げて「『ならでは』のつかみ」に時間をかけるのです。
しかし私の感覚では 9 割の会社は問題対処の分業集団になっていて「『ならでは』のつかみと熟成」に無頓着でいるように思えます。

 自社の真ん中をつかみ直して未来の材料としていきませんか。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 081」2018.3.16】