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COLUMN

いい会社づくり通信

商品から離れない

2018.10.29岡村 衡一郎

 いずれの商売も商品で決まる。
と言ったら大げさに聞こえるだろうか。
お客さまは商品と付き合っている。
今、繰り返し購入いただいているお客さまも、ほかに有用な選択肢が現れれば容易に離れて行ってしまう。
この当たり前が、マーケットでの支持率を占めるようになると忘れがちになる。
商売は商品で決まるという原則から離れて、会社の内側に自社の保身に視点が移る。

 ある量販店が伸び盛りのころ、事業の旗印に掲げていたのが「お客さまの生活コストの削減に貢献する」であった。
「この価格でこの品質のものが買える」。
既成概念をくずした商品に主婦は並んでも買いに来た。
価値と価格のバランスで商品力は支持されていた。
だが売り上げが一兆円を超えたころ、目標は結果数値であるはずの「売上高 2 兆円」に。
貢献の形としての生活コスト削減が安易になりだす。

「安ければ売れる」。自分たち中心の考え方が商品の価値への感度を鈍くし、生活の潤いを無視した価格重視の商品が店頭に並ぶ。
安くても欲しくないものはいらない。
当たり前から離れていってしまった結果、他社の商品に追い抜かれ、その量販店はなくなってしまった。
他社との比較を忘れ「売上高 2兆円の達成」に向かって商品開発が独善的になっていったからだ。

「いいものを安く」。
この量販的な売り方は今も健在である。
商品の価値/価格に厳密に支持を集めている企業の代表は無印良品である。
以前脚光を浴びていた量販店が意図していた「いいものを安く」を「いいものを、かっこよく、お値打ちに」という形で深めている。
雑貨から住宅まで幅広い商品の価値と価格のバランスは、日本はもちろん、ヨーロッパでも支持されている。

 商品力を深められる理由の一つは、開発権限がすべて担当者にあることだ。
上が気に入る開発ではなく、お客さまを向き「いいものを、かっこよく、お値打ちに」支持される価値と価格をつくりだすことに集中している。
無印良品が、活気のある社員が多くいる、
働きがいランキングで絶えず上位にいる理由がここにある。
社長の臨店の際に、そのときだけ社長好みの売場をつくるなどの内向きのアクションは絶対に取らない。

 商売の質も働きがいも決定づけるのは商品への向き合い方だ。
外側にある貢献の質を高めるべく、商品を真ん中に議論し切磋琢磨できる環境がお客さまの新しい支持をつくり、よき社風をつくっていく。
企業が傾く原因のほとんどは仕事の目的から離れた内向き思考だ。
数値の結果目標を重視し、上司に過度に気を使い、本音と建て前を分け仕事をするのが日常になる。

 典型的な例が、粉飾決算や商品のデータの改ざんなどの内を向き過ぎた結果引き起こされる事件の数々だ。
お客さまは商品と付き合っている。
会社を強くするアクションは、自社の商品がもたらす価値と価格のバランスを高めること以上にはない。
会社とはお客さまの関係であり、お客さまとの関係の質を維持発展できるのは商品を通じてである。
商品から離れて内を向けば衰退は確実だ。

 仕事の目的はお客さまへの商品を通じた貢献である。
商品を必要とするすべてのお客さまに思いをはせた価値と価格のバランスを突き詰めた形にしよう。
商品から決して離れてはいけない。

【HOTERES「サービス・イノベーション 48手-Part2 059」2017.9.22】