普遍的な価値を変化の足場に飛躍する
2017.10.17岡村 衡一郎
満開の花は置かない。なぜなら花でなくお客さまが主役だから。
ホテル業の人にとって有名な話かもしれない。
だがこれだけ端的に自社のスタンスを表せる事柄をどれくらいの企業が持っているだろうか、そして語り継いでいるだろうか。
花を決めたのは先達の誰か。
花一つに全世界感が表れている。
その本質的な理由を共有できれば、後を引き継ぐ人にとってプロントでもレストランでも応用できる軸になる。
主役を演出するための新たなアクションをそこから考えられるからだ。
変化を得意とする企業ほど先達の決めた出来事の中心をとらえている。
普遍的に変えないものが軸にあるから今に合わせて自分たちを新しくする遠心力が働きやすくなっているのだ。
近年のマツダの躍進もそうだ。
赤、ドライバー、二つのキーワードを足場に自分たちのポジションをもう一度つくり出した。
ホンダのNも創業者が込めた新しい日本の乗り物づくりを
軽自動車のカテゴリーで後を継いだ人たちが蘇よみがえらせた。
このように自分たちの持っている普遍性を意識しているかいないかで大きな差はできる。
今、安定期にある日本企業の根幹と言っても差し支えない。
自己意識下にある企業は変わることが上手だし、過去の思い出になっている企業は道に迷っている。
私の仕事柄そんなケースに多く出会う。
過去の思い出になっている企業の特徴は弁当箱の議論に終始し中身の話をしないところだ。
どんな容器がいいか、どんな色が受けるかが焦点になって中身のハンバーグや天ぷらの議論が抜け落ちている。
企業の在り方の表れとしてのメイン商品やサービスの普遍的価値の掘り下げと現代への応用の議論はなく、やり方だけの話になっているから道に迷うのだ。
こんなときに私は、過去の歴史を切り開いた商品・サービスの背後にある人の思いと実践について可能な限り情報を集め、皆で何をしようとしたのかを掘り下げる対話を突破口にする。
変化の足場になりうる普遍的な価値を複数の出来事の抽象化で浮かび上がらせるのだ。
例えば、あるヒット商品の背景にその企業の創業の原点とも言える「女性をとことん喜ばせる姿勢」があったり、ある食材開発の背景に「本当においしいものを広めたい」という先達の思いが改めて分かったり。
どの企業にも心温まるエピソードはつきないからこそ今がある。
冒頭に触れたホテルは、花を通じ在り方としての普遍的の価値が共有であるからこそ、いつも新しい。
お客さまを主役にするという軸はこれから先も変わることはないだろう。
女性の喜びも、おいしいものを知りたい欲求に応えるのも根源的に変わらない価値だ。
お客さまが期待する事柄は一定の一定の期間で変化するからやり方は変わる。
しかし一丁目一番地の欲求は変わらない。
先人の意図と実践をさかのぼれば通用する普遍性を浮かび上がらせ、自己認識の中にしっかりと突き詰める価値をとらえた取り組みは新しいコトを生みだす軸になる。
女性を喜ばせるのも、おいしいものを広めるのも、決して100 点満点を取れるほど簡単なことではない。
自社の新しさは普遍的な価値の掘り下げから生まれるのだ。
【HOTERES「サービス・イノベーション 48手 008」2016.8.5】