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COLUMN

いい会社づくり通信

先達を含んで超えるがイノベーション

2017.09.01岡村 衡一郎

 変わるとは破壊であるというテーゼを本当に信じているのだろうか。
昔話にあまり意味がないというような雰囲気や過去の否定が重要だと考えている変革論者に私はよく遭遇します。
だが否定や破壊の延長線上に好ましい変化を実現した企業を私は知りません。
イノベーションとは、水素(H)に酸素(O)が結合することで水(H2O)になるような変容であるからです。
先達の気づいた基盤をHとして、引き継いだ自分たちがOを加えていくのです。
先達を否定している暇などありません。

 旭山動物園の坂東元(ばんどうげん)園長は、奇跡の動物園と言われる復活劇のリーダー。
変化の作法である温故知新と新結合で変化を具現化したモデル的な存在です。
彼らは動物園の存在意義について徹底的にさかのぼり、対話を重ね、レクリエーション施設の原点は「リ・クリエイト」であり、来場客が気持ちや見方が新しくなる場だと、先達の取組みを理解したのです。
動物園の創業の心を今のやり方「行動展示」(動物の生態系に近い形で素晴らしさを伝える)という方法論に落とし込んだのです。

 加えて旭山動物園の「行動展示」は、創業以来行なってきたワンポイントガイド(飼育員が動物の生態を解説する)という自分たちの基盤の上にできあがった方法であるからこそ、見せて終わりではなく、手書きの説明ボードや定期的に肉声で素晴らしさを伝える取り組みに独自性を発揮しています。

 先達の動物園をつくった意図がH、長年やってきたワンポイントガイドと行動展示という伝え方見せ方がO。
これらが有機的につながってH2O となり、来場客を大幅に引き上げたのです。

 イノベーションの作法には三つ柱があります。
第一の柱は、先達の意図の理解です。

 ホテル業の発祥は何を意図し、どうしたかったのか、普遍的な価値を教えてくれます。
第二の柱は、自分たちが地層のように築いてきた強みの把握が、変化の足場になります。
そして、第三の柱は、自分たちの違和感からくる問題意識です。

 旭山動物園の坂東元園長の違和感からくる問題意識は、動物の素晴らしさに優劣はないという信念でした。
ラッコやコアラを看板に誘客を図っていた業界慣習への違和感が、あざらしの行動展示を成功に導いたのです。

 自分たちのホテルやレストランの意義のある変化を実現するために、三つの柱を確認してみてはいかがでしょうか。
そして、変化をリードする原動力は、自分たちの問題意識から生まれる商品・サービスを新たな価値に変える実践です。

 商品・サービスは人がつくるものですから、ホテルやレストランも営む人の問題意識よって違いが出て当然なのです。
先達の意図を含む温故知新と自分の問題意識を加える新結合が、イノベーションを生み出します。
先達の気づいた基盤に埋もれることなく、生かし、新たな価値を加えるのは、ある程度環境が整ったわれわれの世代には見えにくくなっていることの一つですが、運営はマンネリが生み、画一化がお客さまを飽きさせてしまうのです。

【週刊HOTERES「サービス・イノベーション48手 003」2016.6.24】