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COLUMN

いい会社づくり通信

「一品」N 倍が変化をつくる

2017.09.01岡村 衡一郎

 自社- A ≒0。
これはAがなくなったら自社ではなくなってしまうという意味を表しています。
貴社の場合Aに何が入りますか。
商品・サービス名が入ることも、取り組み姿勢が入ることもあると思います。
活性化している企業ほどAを毎年深化させています。
 
 逆にいきづまり感のある企業ほど逆のNOT・Aの動きを取りがちです。
「Aではだめだ、だから変えよう」が市民権を得て行なわれているのです。
しかし、NOT・Aの取り組みは、長期的には競合他社との戦いには敗れていきます。
「人が来ない、だから観光施設をつくろう」とした施策の多くが行き詰ったのも、自分たちの強みの上に立った取り組みではなかったことが要因です。

 変化やイノベーションは、ぶどうがワインになるような地続きの変容。
自社-A≒0のAにあたる部分の熟成による飛躍です。
例えば、グリコの「ポッキー」も去年とは味もラインナップにも違いがあります。
そして、ポッキーで分かったお客さまの変化や市場の変化は他の商品へのインプットにもなっています。
ポッキーを掘り下げる取り組みは、お客さまの嗜好の変化を捉える実践であり、自分たちを新しくする媒介でもあるのです。
酒のつまみに菓子という新領域の開発もまた、ポッキーを通じて発見したシグナルを生かしたと言えます。

 変化を得意とする企業は、Aに限界を設けていません。
支持されている商品・サービスに満点を与えることはないのです。
さらに伸ばす、改良する、横に展開するなどの取り組みを経営の中心に据えています。
売れないモノ、人気がないサービスのテコ入れを後回しにしているのです。
自分たちの「一品」と言える商品・サービスの質と数が、企業の現在と未来をつなぐ唯一の橋と知っているのです。

 ホテルやレストランの経営に置き換えれば、あるケーキが人気なら3倍するための施策を軸に徹底的に取り組む。
50代からの支持が高い施設なら、この世代を3倍にするための対策に知恵を絞り、かゆいところまで手を打っていく実践になります。
星野リゾードのリゾナレーレの「大人のためのファミリーリゾート」になるための商品・サービスのラインナップ化がA を熟成させた飛躍の一例でしょう。

 しかし、私の知る限りでは弱い商品や時間帯、集客の少ない世代を埋めに行く対策に力を入れていた企業は多くあります。
売れている、人気があるからよしとしてしまうか、売れることが当たり前になって、自分たちの「一品」である商品・サービスが空気のような存在になっていて、ないものに焦点をあててしまうのです。

 強みを伸ばせばうまくいくといった単純なことを言っているのではありません。
繰り返しになりますが、重要なのはぶどうがワインになるような地続きの変容。
自社-A≒0のAにあたる部分の熟成による飛躍です。
飛躍は3倍、5倍を目指す取り組みの過程に訪れます。
だからこそ、昨年対比で一律5%アップという計画では変わらないのです。

 一品N倍で大きな飛躍を。 

【週刊HOTERES「サービス・イノベーション48手 002」2016.6.10】