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ホテルを選ぶ基準を変えた パークホテル東京の「アーティストルーム」

サービス業  |  「組織の壁を越えた事例」

 東京・汐留にあるパークホテル東京は、自分たちをホテルという既存の枠にはめ込みません。
お客様がホテルを選ぶ基準となる、立地、空間、サービス、そして価格に加えて、「日本の美意識が体感できる」という新しい選択基準を持ち込み、注目を集めています。
一年間でマスコミ掲載回数が100回を超えるのは、このクラスのホテルとしては異例の話題性を持っていると言えます。

 「日本の美意識が体感できる時空間」である存在意義を、お客様に分かりやすく訴求できた「一品」が、「アーティストルーム」です。
日本の美意識(日本人が美しいと感じること、文化として根付いていること)を表現した部屋の総称です。
なりたい姿を端的に表現する「一品」が生まれた背景には、予期せぬ成功を生かした出来事や、働いていてうれしい瞬間をもっと増やそうというおもいがあります。

 パークホテル東京は、予期せぬ成功を生かし変化の方向を発見しました。
日本的なよさと言える墨を使ったアート作品の展示会で、比較的高価な商品が次々に売れた出来事、ホテルのバーで提供しているウィスキーロックの丸氷に対する評価のよさなどに意味を見出したのです。
自分たちにとって墨を使った表現や、角氷よりも均一に溶け出す丸氷がウィスキーをより美味しく楽しめるということは、日常の中にある当たり前の風景でした。
自分たちにとっての当たり前は、お客様にとっての驚きに変わった瞬間に、「日本の美的表現に触れる機会が価値になる」と意味を発見したのです。

 「日本の美意識が体感できる時空間」というコンセプトは、働く人たちのごほうびを増やすための作戦でもあるのです。
彼らにとって最高の瞬間は、「このホテルを選んでよかった、日本にきてよかった」との言葉をいただけた瞬間にあります。
外国人比率の高いホテルならではのごほうびです。
情緒的な原動力が高まる「一品」であったことに加え、日本に美の体験は、彼らのもともとの空間優位性をさらに生かすという、今までの存在を含み超える取り組みであったからこそ、花ひらきました。
ぶどうがワインになるような変革であったのです。

 彼らの原点にある強みは、質の高い空間づくりと欧米系のお客様の比率の高さにあります。
これらの強みは日常の中に埋もれ、磨き込まれることがないまま眠っていました。
「日本の美意識が体感できる時空間になる」という変化の方向性が、強みの掘り起こしに直結したのです。
そして、何を強め、何で選ばれるのかを定めたコンセプトは、お客様への訴求点であると同時に、現場の知恵を引き出し、持ち場を離れた動きを有機的に進めるための、仕事の判断軸としても機能しています。

 コンセプトを形にするのは、「アーティストルーム」に留まらず、接客対応、レストランのメニュー、ラウンジでの企画など、あらゆる場面で日本の美的表現を商品・サービスに反映しています。

 パークホテル東京の周辺には、世界チェーンのホテルが複数隣接しています。
知名度だけをとれば、そういったホテルに分があり、価格優位性に訴えるビジネスホテルも同商圏内に存在していますし、出店が続いています。
競合環境が厳しくなっていく中で、知名度、価格ではないところでの戦い方を模索してきた彼らにとって、「日本の美意識が体感できる時空間」というポジション取りは、知恵で戦うための最良の武器を得たことでもあったのです。